#54 恨み言




 食事が終わると3人ともお腹一杯で、しばらくゴロゴロと休憩した。



 私は『このままゴロゴロしてたら、コタツの上もキッチンも散らかったまま! こういう時こそしっかりしないと!』と、自分を奮い立たせて、一人で食事の後片付けを始めた。


 二人には『私がやるから、ゆっくりしてて』と一言声をかけていた。


 洗い物を全て済ませて、流し台周りの掃除とコタツの上の拭き取りを終えると、今度はプリンを作ったマグカップを3つ、コタツに運んだ。


『二人とも、そろそろ起きて。 プリン食べよ?』


「すいません、片づけ手伝わなくて」


『ソウジくんはアルバイトで疲れてるんだから、気にしないで。 それで、プリン食べながら、これからのことを相談したいの。いいかな?』


「はい、そうですね。今のうちに色々決めておいた方がいいですね」


『うん、それでね・・・』


 お昼にエミと相談して決めたことをソウジくんにも相談した。

 ソウジくんは全部了承してくれた。


 冷蔵庫の話も断られるかと思ったけど、「断っても無駄ですよね・・・?」と諦めた口調で了解してくれた。


 なので、明日ソウジくんが学校から帰ってきたら、早速家電屋に出かけて買うことになった。







 翌朝も寒くて目が覚めた。

 昨日と同じようにエミに掛け布団を独り占めされていた。



 スマホを見ると6時丁度だったので、起き上がり、流し台で顔を洗い、朝食の準備を始めることにした。



 お米を2合研いで炊飯器にセット。

 昨日の鍋に使った豚肉が少し残っていたので、豚汁を作ることにした。


 野菜も鍋用に準備して余った物を使った。



 3人で一緒に朝食を食べて、学校へ行くソウジくんを送り出すと、お部屋の掃除と洗濯物をすることにした。


 洗濯物は、近所にコインランドリーがあるので、3人分をそこでまとめて洗濯することに。 コインランドリーを使うのは初めての経験だったので、エミと二人で勉強のつもりで行ってみた。


 他の稼働している洗濯機とかの様子から、スタートさせたらその場を離れて、後で取りに来るのでも問題無さそうなので、スタートさせたら一度部屋に戻り、終わる時間になったらエミに取りに行くようにお願いして、私は家の様子を見に出かけた。






 家に着くと、ガレージにパパの車が無かったので、予想通り仕事に出かけたと思った。


 玄関は鍵が掛かっていたので自分の鍵で開けて、音を立てない様にそっと中に入る。


 人の気配がしなかったので、ママも留守だと思い、真っ直ぐ自分の部屋を目指した。


 部屋に入ると直ぐに通学用のリュックに学校の宿題を詰め込んで、他にも下着やタイツの予備をリュックに入れた。


 一通り荷物の用意が終わると、ふと思いついて、夏用のタオルケットをクローゼットから出した。

 これだけだと夜寝るには寒いけど、無いよりはマシだろうと考えた。


 部屋にあった一番大きい紙袋に入れて、次にエミの部屋に入り、頼まれていた物を探してリュックに入れた。



 あとは自転車だけになったので、1階に降りて何となく台所に入った。


 何か持って帰れるような食べ物ないかな?と思い、冷蔵庫や棚の中を物色していると

「アミなの? アナタ、なにしてるの?」と後ろから声を掛けられた。


 気配に気が付かずいきなりだったので、心臓が止まるかと思うほどビックリしたけど、振りむいてママの顔を見たら、直ぐに冷静になれた。


『忘れ物取りに来ただけ。 すぐに出ていくから』


 するとママは、ヒステリックに喚き出した。


「あの人もアナタたちもみんな自分勝手!好きな事ばかりして誰もわたしの苦労なんて考えてない! なんで私ばかりこんな目にあわないといけないのよ!」



 ああ、ママはエミにあれほど責められたのに、まだ分かっていないんだ。

 あくまで自分は被害者なんだ。


 ソウジくんに対してだって、加害者だっていう意識が全くなくて、むしろ自分は被害者だと思ってたんだろうな。


 そう思うと、気持ちが冷えていくのが自分でも分かった。




『ホント、エミが言ってた通りだね。 ママってびっくりするくらい人間のクズなんだね。 ねぇ知ってる? 私ね、ソウジくんのこと好きだったんだよ? 私の初恋だったんだよ? なのにいきなり兄妹だから好きになっちゃダメって言われたんだよ? パパが浮気してたこと知るよりも、どれだけショックだったか分かる? 誰のせいで私はこんな思いしてるの? 全部パパとママのせいだよね? なんで実の親にこんなに苦しめられないといけないの? なのに何? ママは被害者のつもりなの? どんだけ自分がかわいいの? 娘よりも自分が大切なら、何で私を産んだの? 私、ソウジくんを不幸にするくらいなら産まれて来たくなかったよ』


 私が話している途中からママは「うるさい!うるさい!」と繰り返して、私の話はほとんど聞いて貰えなかった。


 頭を掻きむしり「うるさい!」と繰り返すママの顔を両手で掴んで、顔の直ぐ前で真っ直ぐママの目を見て

『ママのこと、一生恨むから。絶対に許さないから』

と言うと、ママは目を泳がせ私の手を払い、台所から出て行った。




 台所で一人になると、ため息を1つ吐いて、アパートに戻る準備をした。


 目に付いた食材や調味料をスーパーのレジ袋に片っ端から入れて玄関まで運び、自転車のカゴに入れた。

 それと、玄関で靴も持って帰ろうと思いつき、台所からもう1つレジ袋を持ってきて、私とエミの靴を2足づつ計4足詰め込み、自転車のハンドルに掛けた。




 帰り道、泣きたくなかったから、初めてソウジくんの歌を聞いた時の中島みゆきの”ファイト”を声出して歌いながら自転車を漕いだ。


 結局涙が止まらなくて、私にはソウジくんの様に上手には歌えなかった。




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