#51 兄妹




 ソウジくんは私の謝罪を「謝る必要はない」と許してくれた。

 というか、本当に私のことを憎んでも恨んでもいない様だった。


 ソウジくんは私とエミに、あのいつもの優しい笑顔を向けてくれた。


 そして、ようやく気が付いた。

 今まで何度も向けてくれたこの笑顔は、私たち”妹”に向けるの微笑みだったんだ。




 ソウジくんに再び促されて、私とエミはコタツに入り、ソウジくんが温め直してくれたホットミルクに口を付けた。


 私はマグカップを一旦置いて、今度はエミに話しかけた。


『エミ、今日は1日ありがとう。 エミがずっと頑張ってくれたから、お姉ちゃんココまで来れた。 いつも頼りなくて情けない姉でごめんなさい』


 エミがここまで引っ張ってくれなかったら、今もまだあの家で泣き喚くことしか出来なかったと思う。

 まだ中学2年のエミに甘えて無理させてしまっていた。

 だから、エミに対しては申し訳ない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいだった。


「ううん。 私の方こそ、お姉ちゃんが居たから、ここまで踏ん張れたと思う。 一人だけだったらきっと挫けてたよ」



 エミはさっきバス停で降りた時、ソウジくんに会えた途端、泣きながら抱き着いていた。 それまで気丈に頑張っていたのが、会えた安心感から緩んでしまって一瞬本心が出てしまったんだろう。


 本当にエミは凄いと思う。

 14歳でここまでしっかりとした女の子なんて他に居ないだろう。

 私には勿体ない妹だ。


 私がそんなことを考えながらエミの頭を優しく撫でると、エミは嬉しそうな笑顔を返してくれた。





 しばらくそうやって静かに休んでいると、今度はエミがソウジくんに話し出した。


「ソウジ先輩、私たちが血縁の話、しばらくお姉ちゃんには話さないって決めてたのに、私から話してしまいました。ごめんなさい」


「そうだったんですね。でも何か事情があったんですよね? むしろ辛い役目をさせてしまって、僕の方こそ申し訳ないです」


『あの・・・二人はこのこと前から知ってたんだよね? それはソウジくんがエミに教えたからなの?』


「違うよ! 私は、昔の資料を見つけちゃったの・・・それだけだと確信までは持てなくて、それでソウジ先輩に確認して本当の事が分かったの」


「アミさんには誤解させてすみません。 でも僕からは誰にもこの事実を話すつもりは無かったんです。 ですが、エミさんは事実を知ってしまったようだったので、隠さず正直に認めました。 アミさんにもいずれ話さなければとずっと思いながらも、言えずにここまで来てしまい・・・本当に申し訳ないです」


「お姉ちゃん、ソウジ先輩の言うことは本当のことだよ。 お姉ちゃんにいつ話そう、どうやって説明しようって何度も私たち相談してきたんだから。 ソウジ先輩、そのことでずっとお姉ちゃんに罪悪感持ってたんだよ」


『そっか・・・そうだよね・・・そんな簡単に言えることじゃないよね・・・』


 少しだけ(エミには話して、私だけ除け者だったの?)と思ってしまったけど、悪意があってそうした訳じゃなくて、仕方ない状況だったというのが分かって、少し安心した。




 その後、ソウジくんが近所のコンビニまで私たちの夕食を買いに行ってくれて、食事をしながら今日ウチで起きたことをソウジくんに説明した。



 私が盗み聞ぎした内容。

 その後、エミが16年前の話を二人に突き付けたこと。

 私がその話を聞いて、二人に詰め寄って暴れてしまったこと。

 ほぼ絶縁するような形で家出してきたこと。


 ソウジくんは、私やエミの話を目を瞑って静かに聞いていた。


 話を聞き終えると、ソウジくんは目を開いて

「あの父が、また浮気して相手を妊娠させたというのは、間違いないんですね?」と確認するように質問した。 ソウジくんの声は先ほどよりも低く、私はソウジくんがこんなに怒るのを初めて見た。


『相手との会話の内容からすると、間違いないと思う』


「そうですか・・・救いようの無い糞みたいな人間って、本当に居るんですね。 しかもそれが自分の父親だなんて」

「二人とも、しばらくは父にもあの母親にも会わない様にしましょう。 本人たちと相手夫婦との問題です。 アミさんもエミさんも関わってもロクなことにはならないでしょう。下手すれば、相手から見れば君たち二人も恨みの対象になりかねません。 まずは身の安全を優先しましょう」


「それと、エミさん。 僕の代わりに、僕がずっと言いたかった恨み言を君の母親に言ってくれて、ありがとう。 エミさんのお陰で母も少しは気が晴れたんじゃないかと思います。 僕も溜飲が下がる思いです」




 今日の出来事をソウジくんに話し終えると、時間も遅いのでこれからの相談は明日にして、交代でお風呂に入って寝ることになった。


 布団は私とエミが使い、ソウジくんはコタツで寝ることになった。



 エミと一緒に布団に入り、横になって抱き合った。

 ソウジくんが「おやすみなさい」と言って、部屋の照明を消した。







 今日は色々ショックな話が多すぎてグチャグチャだった感情と頭の中が、寝る頃にはようやく落ち着き、そして私にとって重要なことを思い出した。




 私の恋したソウジくんは、私の兄で、恋してはいけない人だということを。










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