#50 謝罪
土曜の夕方、勉強をしていると、珍しくスマホの着信音がなった。
画面には”間宮アミ”と表示が出ていた。
そういえば、今日は日課のメッセージが来ていないな、と思い出しながら通話のアイコンを押し「はい、安藤です」と応答すると、電話を掛けてきているのはエミだった。
「急に電話してごめんなさい。 ウチでトラブルがあって相談したいことがあるんです」
エミの声はいつもと違い、何か焦っている様だった。
「しばらくの間、私とお姉ちゃんを泊めてもらえませんか?」
その様子にただ事じゃない、もしかしたら例の件で何かあったのか、と思い直ぐに了承した。
二人で家を出るということは、あの両親と何かあったんだろう。
エミが電話してきたということは、アミは今動揺しているのか何か不安定な状態で、つまりアミに僕達の秘密が知られたと考えられる。
今日エミと相談して、もうしばらく様子を見ようと決めたばかりなのに、一体何があってそうなったんだろう。
色々と考え事をしていると「今、バスに乗りました。15分程でアパートに着くと思います」とメッセージが来た。
上着を着こんでバス停まで行って、二人が到着するのを待った。
バスが停まり、二人が降りてくる。
二人ともキャリーバックとスポーツバックを抱えてて、本気で家出してきたのが分かった。
降りてきたエミは、僕が待っていたことに気が付くと、キャリーバックをその場に置いたまま、「おにいちゃぁぁん!」と泣きながら僕に抱き着いて来た。
「もう大丈夫だから。 僕は二人の味方だから」
落ち着かせようと言葉を掛けながら、エミの背中をポンポンと軽く叩いた。
アミの方に目を向けると、口を押さえ泣きながら立ち尽くしていた。
「アミさんも、もう大丈夫だから。 ウチでゆっくり休もう」と言って、空いた方の手をアミに向けて伸ばした。
『ソウジくん・・・ごめんなさい』と言いながら、アミも遠慮がちに僕の腕の中に収まった。
僕は二人を抱き返しながら「よくココまで頑張ったね。 僕が付いてるから、もう大丈夫だから」と言葉を続けた。
「とにかく、ココだと寒くて風邪ひいちゃうから、ウチに行こう」と言って、二人のスポーツバックを受け取り肩に掛けた。
部屋に戻ると直ぐにコタツの電源を入れて「体が冷えたでしょう? コタツで温まって下さい。 話は落ち着いてからゆっくり聞きますので」と促し、キッチンへ行き、鍋で牛乳を温めた。
マグカップ二つにホットミルクを注いでコタツに座る二人の前に置き、僕もコタツに入った。
「熱いから火傷しないように気を付けてね。 それと、しばらくウチに居て良いから、とにかく今はゆっくり休もう」
そう話して、自分のコーヒーを口にすると、アミがコタツから出て、僕に向かって正座の姿勢のまま頭を下げて、畳に両手と頭を付けた。
『ソウジくん、ずっとずっとごめんなさい! 私のせいで・・・私が生まれてきたからソウジくんを不幸にして・・・そのことずっと知らなくて、今までソウジくんのこと傷つけてた・・・本当にごめんなさい』
アミは土下座しながら、その手は僅かに震えていた。
突然のことで僕が呆気にとられ固まっていると、今度はエミがアミに抱き着く様に
「お姉ちゃん!お姉ちゃんのせいじゃないって何度も言ったのに!お姉ちゃんが謝ることじゃないから!」と必死に土下座を止めさせようとした。
アミは頭を下げた姿勢のまま
『エミ、そんな簡単なことじゃないんだよ。 私は自分が許せないの。 知らなかったじゃ済まない事だってあるんだよ』
アミの言葉を聞くとエミもアミの横に正座して、アミと同じように頭を下げた。
「お姉ちゃんに罪があるなら、私も同じです。 同じ親から生まれた私も先輩を不幸にした子供です。 今までごめんなさい」
僕の抱いていた復讐心は、この二人にこんなことさせたかった訳じゃない。
慌てて二人を抱き起そうと腕や肩を掴むが、二人とも抵抗して頭を上げようとはしてくれなかった。
仕方ないので、二人の間に僕も同じように正座をして、二人の小さな背中をさすりながら、語りかけた。
「僕が君たちの家に来た時、僕の心の中は憎しみと嫌悪の気持ちで一杯でした。 今でもそうですが君たちの両親の事を母のカタキだと思ってましたから。 母の苦しみを味合わせたい。 母を不幸に追い込んで自分たちだけ幸せになるなんて許せない。そう思いながら君たちの家にやってきました」
「アミさんとエミさんのことは、あの二人の罪とは関係ないと思いながらも、やはり最初は警戒してました。あの二人と同類で糞みたいな人間じゃないか、僕の生活を邪魔する存在にならないか、そう思いながら様子を見ていました」
「でも、二人とも全然違いました。 あの女が僕を差別し冷たくするのをほおっておけなくて、差し入れとか色々助けてくれたアミさん。 真実を知っても僕の事を兄として慕って、そして僕の相談相手になってくれたエミさん。二人が僕の憎しみを和らげてくれたんです。 そんな二人には感謝と愛情の気持ちしかありません。 二人に謝って貰いたいなんて全然思いません。 逆に謝らせてしまっている自分が・・・兄として情けないです」
「だから、頭を上げて下さい。 ミルクが冷めないうちに飲みましょう、ね?」
そこまで話すと、ようやく二人とも体を起こしてくれた。
二人とも体を起こすと、間に座る僕に抱き着いて来た。
僕は二人の頭を撫でながら「可愛い妹には笑っていて欲しいです。 泣かれるととても辛いです」と本音を零した。
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