#47 クズは繰り返す



 冬休み直前の週末土曜日。

 お昼過ぎてるのにご飯に呼ばれないな?と思い1階に降りると、リビングからママの怒鳴り声が聞こえた。


 うぁ・・・また喧嘩か・・・とウンザリしながら台所へ行こうとすると、リビングにはパパとママ以外にも知らない男性と女性の二人が居て、4人で何かを揉めている様だった。


 最初はウンザリする気持ちと興味本位で、しばらく台所で息を潜めて盗み聞きしていた。



 ただならぬ空気から、よほどの事があったんだろうと聞いていると、パパと相手の女性とが不倫していたことが聞き取れた。



 最初に思ったのは、嫌悪感。

 パパ、最低。 気持ち悪い。


 次に、僅かな同情。

 あんなヒステリックに怒鳴り散らすママとじゃ、息抜きもしたくなるのかな。


 その次は、空腹感。

 お昼、自分で作るか・・・


 まだこの時は、自分にとってパパの浮気なんて他人事、という感覚だった。





 お昼ご飯にうどんを一人分茹でていると、不意にエミの言葉を思い出した。


「パパとママはクズだからね。親だからって全部を信用しちゃダメだからね」と言っていた。


 このことなの!? エミは前からパパの浮気に気付いてた???

 でも、エミはママのこともクズだと言っていた。


 エミの言っていたことは別の件でも何かあるということなのかな?


 そんなことをうどんを茹でながら考えていると、ひと際大声で怒鳴る声が聞こえた。


「人の女房を妊娠させて、どう責任取るつもりだ!」

 多分、相手の男性の声だろう。

 今日、一番の衝撃だった。



 確かにエミの言う通り、パパはクズだった。


 流石に動揺してしまい、それでもなんとか落ち着こうと自分で作ったうどんを食べていると、エミが帰って来た。



 リビングの怒鳴り合いにビックリしたのか、恐る恐る台所に入ってきたので、今まで盗み聞ぎした内容を説明した。


 私の話を聞いたエミは、今までに見たことが無いほど怒っていた。

 文字通り、怒りに打ち震えるように、唇を震わせていた。


 私は必死にエミを落ち着かせようとした。

『エミ!落ち着いて! どうしたの!?なんでエミがそんなに怒るの!? とにかく落ち着いて!お姉ちゃんに話してみて!』


 怒りに震えるエミに冷静になって貰おうと、慌てて冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注いで、エミの手に握らせた。


 エミは牛乳を一気飲みすると、食卓のイスにドサっと腰掛けた。


 私も横にイスを並べて座り、エミの体を抱きながら『お姉ちゃんが居るから大丈夫だから』と声を掛け続けた。



 しばらくすると、エミは落ち着いたのか、少しづつ話し始めた。


「パパの浮気はこれが初めてじゃない。 パパはママと浮気して、前の奥さんを捨てて再婚したの。 だから私はパパもママも大っ嫌い。 人間のクズだと思ってる。 それがまた懲りずに浮気して相手妊娠させてるだなんて・・・」


 初めて聞くパパとママの結婚の経緯にびっくりした。


 だって今までは普通に、職場で出会って恋愛結婚だって聞いてたから。


「パパは救いようのないクズだけど、ママも自業自得。 自分がしたことがそのまま自分に返って来ただけ。 ざまぁ見ろって思う」


 最初は他人事の様に聞いていたリビングの話も、相手が妊娠しているという話で私はいっぱいいっぱいになり、エミの話で完全にキャパオーバーしてしまった。


 ウチって普通で平凡な家族だと思ってたのに、なんなのコレは???

 パパだけじゃなくてママも浮気してたの???


 それにエミ

 何でそんなことまで知ってるの???

 知ってて、今まで知らないフリして家族として過ごしてきたの???



 パパとママに対する嫌悪感、エミに対する違和感、今後の自分の生活の不安で動揺してしまい、この日はソウジくんへの日課のメッセージのことを忘れていた。





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