#45 兄は妹の涙に弱い



 ある程度予想はしてたけど、自分の想いも努力もソウジくんには届かないことに軽く絶望して、畳にポタポタと落ちていく雫を眺めていた。




 しばらく気まずい空気が流れる中、私は泣き顔が見られたくなくて、ソウジくんに背中を向けて顔をあげて

『ごめんなさい! 今の話はもう忘れて! ご飯冷めちゃうから早く食べてね!』と精一杯強がった。


 でも、声は思いっきり鼻声で、拭いても拭いても涙は止まらなくて

『私、お腹一杯だからおにぎりもソウジくん食べてね! 私は洗い物してるね』と言って背を向けたまま立ち上がり、一人でキッチンへ行った。



 また失敗しちゃったな・・・

 これでまた距離置かれちゃうな・・・


 今までずっと我慢して頑張って、なんとかここまで関係改善出来てたのに・・・



 流し台の所でエプロンで涙を拭きながら立ち尽くしていると、いつの間にか後ろに来ていたソウジくんに大きな声で謝られた。


「アミさん、すみませんでした! 決してアミさんを悲しませたかった訳じゃないんです! アミさんにそこまでして貰う価値が自分には無いと思っただけで、アミさんの善意を迷惑とか思ってなくて、本当は凄く嬉しいんです!」


 気配に気が付かないまま背後から大声で叫ぶよように謝られて、ビクっとして、驚きで一気に涙も止まった。


『あの・・・じゃぁ、後で食器とか買い物行ってもいいの・・・?』


「・・・はい、お願いします。僕の為にすみませんが、一緒に買い物に行ってください」


『ホントに? ホントに買い物行って色々買っても受け取ってくれる?』


「あまり高い物でなければ、有難く頂きます」


『よがっだぁ~・・・』


 今度はホッとして、また泣いてしまった。




 しばらく泣いてから食事を終えて片づけると、どこに買い物行くかを相談した。


 100円ショップ、ホームセンター、家具屋に家電屋。

 ドコも自転車で行ける距離にあるので、開店時間になったら行くことになった。


 それまで二人で相談して、必要な物、見たい物を書きだして、今日の買い出しリストを作った。


 お鍋(大)

 フライパン

 茶碗、お皿、コップ、箸やスプーン

 包丁にまな板にタッパー

 バスタオルやハンドタオル

 トイレットペーパー、石鹸やシャンプー、食器用の洗剤とスポンジ

 暖房器具は、コタツが一番安上がりじゃないかという話になった。


 あと、ソウジくんの靴や下着や靴下なんかも買っておくべきだと強く主張した。








 午前中は、100円ショップとホームセンターで台所用品と日用品を中心に買い物した。

 ホームセンターでは他にも、コタツが安かったのでコタツ用布団とセットで買い、配達してくれると言うので、ついでに本棚も購入した。本棚はソウジくんは遠慮したけど、私が無理矢理注文した。


 色々買い集めて荷物がいっぱいになり、一度アパートに帰り荷物を置いたついでに、買って来たフライパンでお昼ご飯のチャーハンを作って食べた。

 その後、少し休憩しているとホームセンターの配達が来たので、早速本棚とコタツを組み立てた。


 それが終わると、再び自転車で買い物に出かけた。


 午後は衣料品なんかを中心に見て回った。


 タオル類やソウジくんの下着や服。オシャレに拘りが一切無いと断言するので、値段だけで決めた。

(でも流石に私が見てもダサいと思う物は避けた)


 靴もスニーカーを一足買った。有名なスポーツブランドの丈夫そうなヤツ。


 カーテンは思ってたよりも高くて、代わりに布を買って帰り、私が簡単なカーテンの代わりを作ることにした。


 これも遠慮されると思ったけど、既にソウジくんは諦めたのか「お願いします」と素直だった。



 一通りの買い物を終えてアパートに戻ると、買って来た物を開封して収納したり、使う前に洗ったりした。



 その日の夜は、早速買って来た調理器具でカレーを作った。


 同じく買って来たコタツに入って、お揃いの食器で二人でカレーを食べながら、いくらお金を使ったのか確認した。



 全部で4万弱。

 まだ予算が残っていた。


 流石に現金を渡すのははばかられるので

『残ったお金で、冷蔵庫買えないかな? 足りないならいつか買う時の足しにしようか』と提案しておいた。


「何から何まで、本当にすみません・・・」


『だ、だから謝らないで! 私がしたくて我儘でしてることだから、アルバイトも今日の買い物も凄く楽しかったんだから・・・』


「そうでした。 アミさんには感謝の気持ちでいっぱいです。 僕なんかの為にここまでしてくれるのは、アミさんだけです。 ありがとうございます。 いつか絶対にこのお礼をさせて下さい」


『うふふ、楽しみにお礼待ってるね?』


「はい、約束します」



 夕食を食べ終えた頃には外は真っ暗だったので、食器を洗い、帰ることにした。


 帰りは一人で帰ろうと思っていたけど、ソウジくんが家の近所まで送ってくれた。



 家の近所の公園で自転車を停めて別れ間際に『また、ソウジくんの時間がある時でいいから、遊びにいってもいい?』と恐る恐る尋ねると、「はい、来てください。 今日は忙しくてゆっくり出来ませんでしたので、次はゆっくり過ごしましょう」と言って、あの優しい笑顔を見せてくれた。








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