#42 兄妹の愛情




 ゴールデンウィーク以降、ひたすらアルバイトと勉強の日々を送った。


 アミのことで色々悩んでいたこともあり、現実逃避するように忙しさに没頭した。

 色々助けて貰ったアミを突き放すのは、正直言って罪悪感があったが、そこで甘くするとまたアミを勘違いさせてしまうと自分に言い聞かせて、アミを避けるようにしていた。


 エミに相談すると「ソウジ先輩はお姉ちゃんに甘すぎた。 可愛い妹だと思うなら、時には突き放さないと!」としっかりお説教までされたので、これでいいのだと納得することが出来た。



 ただ、エミの方でもアミについて色々と気遣ってくれたようで、二人で相談したらしく、アミも夏休みに入る前には随分と落ち着いてくれたように見えた。


 ひっきりなしに来ていた遊びに出かける誘いや、深夜に部屋に来ることもピタリと無くなり、1日1通のメッセージだけになった。 メッセージの内容も、僕の体を気遣う内容ばかりで、ひとまず安心することが出来る様になった。


 それでもエミが言うには、かなり無理して頑張っている様で、距離を置いている後ろめたさもあり、メッセージにはなるべく丁寧に返事するようにした。




 そういえばエミに

「本当は”お兄ちゃん”って呼びたい! でも今は無理だから、せめて”ソウジ先輩”って呼ぶことにします! いつか人前でも”お兄ちゃん”て呼べるようになるのが目標です!」と宣言された。


 こんなこと言われてしまうと、ついつい僕も

「兄としてそんなこと言われたら嬉しくて、僕も頑張ろうって気になりました。エミさんは本当に可愛い妹です」と言ってしまい、言ってから物凄く照れくさくなってしまった。







 お盆の時期に入ると、父とあの女の二人が旅行に出かけたということで、短い期間だけども3人だけでの生活になった。


 その間、アミが食事の用意を頑張ってくれて、アミの作ってくれた食事を食べていると、中3の頃の夜食やお弁当を用意してくれたことを思い出して、少し懐かしい気持ちになれた。


 そのお陰か、アミとも穏やかな気持ちで会話することが出来た。

 


 ただ、ビックリしたのが、アミもアルバイトを始めていたこと。

 何やら目的がある様だけど、前向きになってくれている様で、なんだか安心した。


 僕からも、夏休み中に予定していた引っ越しを少し延期するかもしれないことを話した。

 元々はアミの様子から引っ越しを急いでいたけど、今のアミを見る限り、そこまで慌てる必要が無くなったことと、やはり金銭的な不安があるので、それならもう少し貯めてからにしようと、予定を変更することにした。



 こうやってアミとエミと食事をして色々会話していると、やはりこの二人の妹は、僕にとって大切な存在になってきていると実感させられる。 


 僕がこの家に来たときは、僕の心の中は憎悪と嫌悪の気持ちで埋め尽くされていた。


 まだ1年半と兄妹として見れば短い付き合いだけども、二人が居たからこそ今は母を亡くした悲しみも紛れ、安らぎや楽しさなんかを感じることが出来る様になった。


 たまに暴走してしまうけど、いつも思いやりを持って接してくれていたアミ。

 お調子者で我儘な様に見えるけど、実は3人の中でも一番思慮深いエミ。


 もし、父やあの女だけだったら、今頃怒りで発狂してたかもしれなかったと思うと、感謝しかない。


 今は復讐心よりも、母との約束、そして妹二人への愛情と感謝の気持ちが生まれている。


 アミに事実を伝えた後、僕達の関係がどの様に変わってしまうかは分からないけど、将来僕に出来ることがあれば、この二人の為に何かしてあげたい。してあげられるような大人になりたい、としみじみと思うようになった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る