#41 3人での食卓



 コンビニでのアルバイトは、夏休み期間だけの契約で、週3日平日の10時から14時までの4時間にした。


 初めてのアルバイトは分からないことだらけで、最初は何して良いのか分からず、右往左往してばかり。

 特にレジ打ちとかでお客さんと会話するのはどうしても緊張して声がぼそぼそとしてしまい、よくお客さんに聞き返されたりして、余計に委縮してしまうのがずっと続いていた。


 それでも一緒のシフトにパートの主婦の方が二人居て、丁寧に仕事を教えてくれたり助けれくれたりしたので、8月になる頃には大分慣れて一人でもレジ打ちが出来るようになっていた。


 時給は930円で7月分の給料は18000円貰えた。

 このペースで行けば、夏休み中に6万円は貯められる予定で、このお金でソウジくんに家電か家具をプレゼントしたいと考えていた。



 妹にもこの計画を話したら、最初は「そういうのが重いと思うんだけど」と呆れられてしまったけれど、私の『ソウジくんの為に何かしたいけど、これ位しか今の私には出来ることが無いの』と話すと「あまり無理してソウジ先輩に心配かけないようにね」と、一応納得はしてくれた。




 こんな風に夏休みの間は、アルバイトと学校の宿題とでひたすら時間が過ぎて行き、遊びに出かけたり友達と会うこともほぼ無かったけど、それでもなんだかんだと充実していて、ソウジくんに会えずに焦っていた気持ちもかなり落ち着いていた。






 そして、パパがお盆休みに入るとパパとママの二人で旅行に行ったので、家には私とソウジくんとエミの3人だけになった。


 事前にパパのお盆休み中に家族で旅行に行く話が出ていたけど、私はアルバイトがあるからと留守番することにした。 それを聞いてエミも留守番すると言い、結局パパとママの二人で旅行に行ってもらった。


 その間の食事は積極的に私が作った。

 最近ソウジくんの為に食事や弁当を用意する機会が無くて、ココぞとばかりに久しぶりに張りきった。


 そのお陰か、食事中はしばらくぶりにソウジくんとゆっくり会話が出来るようになった。



 この時、初めてアルバイトをしていることを告白した。

 但し、目的は伏せて。 エミにも事前に口止めした。


『初めてアルバイトしてみて、最初はすっごい大変だったけど、慣れてくると結構面白いね』


「まさかアミさんがアルバイトを始めるとは、予想外です。ビックリしました」


「お姉ちゃんもソウジ先輩の影響で、色々考えているんだよね?」


『エミ! 余計なこと言わないの!』


「そうなんですか。何か買いたい物でもあるんでしょうか?」


『いや、その、夏休みに入ったら暇になると思って・・・だったら私もソウジくんみたいにアルバイトでもと・・・』

『それよりも! ソウジくんの方もだいぶ忙しいみたいだけど、シフトかなり入れてるんでしょ?』


「そうですね。 目標金額までまだまだ掛かりそうで、少し焦ってます。 このままだと夏休み中には引っ越しは無理そうで」


『そうなんだ・・・でも、無理して体壊したらダメだからね? 食事もちゃんと摂らないとダメだよ?』


「はい、気を付けます」


「なんか、お姉ちゃん、ソウジ先輩の保護者みたい。 お母さんて言うよりも・・・お姉ちゃん?」


 エミのその言葉を聞いて、ソウジくんはびっくりした顔でエミを見た。


 私は(恋人が無理でも、お姉ちゃんならアリかな?)と、ノーテンキなことを考えていた。




 結局、パパとママが旅行に行っている間は、朝と夕方は毎回3人揃って食事をした。 食事の時間だけでもソウジくんと会話出来るのが凄く嬉しくて、エミも居てくれたから重い空気になったりすることなく、私も穏やかな気持ちで会話することが出来た。




 そして短い期間だったけど、3人での食事が最後の日にソウジくんから

「やはり引っ越しを少し延期することにしました。 その分目標金額を少し上乗せして、金銭的にもう少し余裕を持って引っ越そうと思います」と話してくれた。


 具体的な時期については、2学期中には引っ越し先を決めておきたいそうで、恐らく冬休み頃には新生活を始めるとのことだった。 



 私はそれを聞いて、少しだけでも延期になったことが嬉しくて、でも無理はしないようにしつこくお願いした。











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