#38 会えない焦燥感



 ソウジくんから、家を出るのを早める話を聞いてからずっと気持ちが落ち着かない。


 高校に入ってから、ソウジくんとの時間がほとんど取れていない。

 ゴールデンウィークも、一度もソウジくんとお出かけすることなく終わってしまった。

 深夜に部屋を訪ねても、最近はバイトで疲れているからなのか既に寝てしまっていて、一言も会話出来ずに自分の部屋に戻ることが続いている。


 スマホでメッセージを送っても、返事が返ってくるまで時間が開く様になってきてるし、返事の文面も短い物ばかり。


 なんとかしないと、このままソウジくんが離れて行ってしまう。


 同居人というポジションに安心しきっていた為、それが無くなることに不安と焦りで胸のあたりがゾワゾワムカムカとして、何も手が付かなくなっていた。


 当然、学校の勉強の方も散々な状況で、高校初めての中間試験ではボロボロだった。



 ううう

 ソウジくんとお喋りしたい・・・

 ずっと一緒に居られると思ってたのに・・・


 つらい・・・



 恋人でも無いのに、会えないことがこんなに寂しくなるなんて・・・

 これで本当に家を出て行ってしまったら、耐えられそうにない。




 気持ちが掻き乱れ感情が沈んだ日々が続いていたある日、夕食中に無意識に溜息を吐くと、エミにたしなめられた。


「お姉ちゃん、さっきから辛気臭い溜息ばっかで、ごはんが不味くなる」


『・・・うるさい、ほっといてよ』


「だったら人前でそんな暗い顔して辛気臭い溜息するの、止めてよ」


『・・・・・ごちそうさま』


 エミの言葉に言い返す気力が起きず、さっさと自室に戻った。



 しばらくすると、私の部屋にエミがやってきた。

 またさっきの文句の続きかとうんざりしていると、唐突にエミが言い出した。


「お姉ちゃん、安藤先輩のこと、好きなの?」


『はぁ!? 急になに?』


「いやだって、お姉ちゃんが暗くなってるのって、安藤先輩のことでしょ? 高校が別になって、更に先輩がアルバイト始めたから、遊びに出かけたり部屋でこっそりお喋りする時間が無くなって、イライラしてるとかだと思ったけど、違うの?」


 図星だった。

 だから何も言い返せなかった。


「はぁ、やっぱりそうなんだね。 でも、ぶっちゃけ言わせて貰うけど、そういうの滅茶苦茶重いよ? 先輩見てれば分かるじゃん。 先輩って恋愛とか全然興味無いでしょ? なのにスキスキオーラびんびんのお姉ちゃんに付きまとわれたら、そりゃ、お人好しの先輩だって引くよ?」



 エミの言葉がショックだった。

 言われてみれば、その通りだと頭では理解出来る。


 でも、不安と焦燥感でいっぱいの気持ちの部分に、追い打ちの様に突き刺さった。






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