#37 相談相手




 安藤先輩と和解して以来、たまにだけどお喋り出来るようになった。



 夏休みの頃に疑っていたお姉ちゃんとの関係は、先輩が「血縁の妹に、恋愛感情は一切ない」とハッキリと否定してくれて、それまで感じていたモヤモヤやストレスは無くなっていた。


 むしろ、私の中での先輩に対する好感度は急上昇したと思う。


 そうなると不思議な物で、最初の頃は貧乏臭くて不幸オーラ纏って、とか思ってたのに、今じゃぁ、イケメンで生徒会長&学年1位の優等生で、実は私のお兄ちゃん。 しかもそのことを知っているのは先輩と私の二人だけ、という状況に一人優越感を感じるようになった。


 お姉ちゃんのことを聞かれると、「また美人のお姉ちゃんと比較されてる」と卑屈な気持ちになっていたのに、先輩の話題が出ても「みんな知らないけど、私のお兄ちゃんだからね♪」と優越感を感じるのだ。



 ただ、本当は”お兄ちゃん”と呼びたいけど、テレ臭いし、誰かに聞かれでもしたら不味いと思い、今でも”安藤先輩”と呼んでいる。


 それこそ、お姉ちゃんやママにでも聞かれたら大ごとだし。






 そんなお兄ちゃんこと安藤先輩から、珍しく相談を受けた。


 相談内容は

「アミさんの言動が急に変わって来てて、戸惑ってしまう。 その・・・エミさんから見て、アミさんはどう見えます?」


「えっと、それってつまり、恋愛的な話だよね?」


「はい・・そういうことです。 春休みに入って受験も終わったからなのか、遊びに出かけるお誘いも凄く増えてまして、それに出かけた時とか僕の部屋に遊びに来た時とか、その何と言うか、距離が近いといいますか・・・」


「キスとかされたの?」


「いえいえ!キスなんてそんな大胆なことじゃなくて、その、手を繋いだり腕を組んだり、座っていると横でもたれ掛かったりされることが急に増えまして」


「流石にキスは冗談だったけど、男が苦手なお姉ちゃんにしては結構大胆だね・・・」


「もちろん、妹としてしか見てませんので、多少のスキンシップなら兄妹としてでも見過ごせるんですが、そこに恋愛感情があるとなれば、無視出来なくて・・・でも本人に確認出来ないから、悩んでしまってるんです」


「つまり先輩は、お姉ちゃんが先輩のことを好きになっているんじゃないかと思ってるんですね? でもそれの確認が出来ずに困っている、と」


「はい、その通りです。 それでこんなこと話せるのはエミさんしか居ませんので、こうして相談している次第です」


「う~ん・・・なるほど。 ぶっちゃけますけど、私もお姉ちゃんは先輩のこと、好きだと思いますよ。もちろん恋愛的な意味での好き」


「やっぱり・・・」


「先輩は見たこと無いと思うけど、先輩と遊びに出かける時にお弁当の用意してるお姉ちゃん、完全に恋する乙女ですから。 お出かけするのも、先輩に食べて貰うお弁当準備するのも、楽しくて仕方ないって感じですよ」


「・・・そうだったんですか・・・迂闊でした。 可愛い妹と仲良くなれて嬉しいと思ってましたけど、まさか恋愛感情を持たれるとは・・・」


「先輩、今、何気に”可愛い妹”って言いました? そういうトコじゃないですか? っていうか、その可愛い妹に私も入ってるの?」


「いや、その・・・僕にとってはアミさんもエミさんも可愛い妹ですよ。二人が居てくれたから、この1年、穏やかに生活することが出来たんですから」


「こういうのを、無自覚天然の女たらしっていうんでしょうね」


「はぁ・・・気を付けます・・・」


「ふふふ、でもちょっと嬉しいです」


「はぁ、どうしてですか?」


「完璧超人だと思ってた先輩が悩み事抱えてて、それを妹の私に相談してくれるなんて、妹冥利に尽きる?」


「なるほど。 でもエミさんは話してても理解力が高くて、それに口も堅いから相談相手としてとても頼りにしています」


「それはどうもです。ふふふ」

「でも、お姉ちゃんのことはどうするんですか? いずれは兄妹だってこと言うつもりなんですよね?」


「それなんです。 今からでも言うべきだとは思うんですが、結果的にこの家を追い出されてしまう可能性があるので、どうするべきかと悩んでます」


「確かに、正直に話したところで拗れてモメて、パパやママも巻き込みそうですね」

「私は別に・・・パパもママも自業自得だから、どうなっても仕方ないと思うけど、そのせいで私や先輩やお姉ちゃんが不幸になるのは、納得出来ない・・・」


「僕もそれには同意です。 アミさんのこともエミさんのことも、傷つけたくない。でも隠していることに罪悪感もあるんです。 だからとても悩んでしまって」



 先輩のこういう真面目なところが好きだ。

 パパやママみたいな人の痛みが理解出来ないクズと違って、先輩は私たち妹のことを真剣に考えてくれている。あの時、初めて話した時もそうだった。

 結果として傷つくことになるかもしれないけど、どうにかしようと悩んで苦しんで、その想いをこうして感じられるから、私は先輩を兄妹として受け入れることが出来て、好きになれた。


 もちろん、私の”好き”は、兄としてですよ。

 恋愛感情では無くて、どちらかというと、憧れ? それと親近感?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る