#36 ズレ




 高校入学後は、忙しい日々だった。



 なれない高校での新生活。

 交友関係も、中学時代の友達が少しは居たけど、ほとんどが別の中学からの人ばかりで、一からの関係作りは大変だった。


 勉強の方も、中学時代とは比べ物にならないほど難しくなって、でも周りのクラスメイトは授業中とかみんな真剣な表情でノートを取ってたりしてて、そんな姿に(みんな授業に付いていけているの!? 授業内容理解出来てないの、わたしだけ!?)と密かに焦燥感を感じていた。


 部活は正直悩んだけど、入らないことにした。

 高校にも文芸部があったけど、放課後やお休みの日は、遊びたかったから。



 でも、ソウジくんとは春休みが終わってからは、ほとんど遊べてない。


 夜中に部屋にお邪魔しても、「学校の勉強についていくのが大変だから勉強したい」と早い時間に返されてしまう。


 放課後も、なんだかんだと用事があるらしく時間が合わないから、憧れの放課後デートはまだ実現出来ず。


 1度だけ放課後に、事前に連絡を入れてソウジくんの学校まで迎えに行ってみたけど、校門の外で待っていたら物凄く注目を浴びてしまい、凄く後悔した。 結局その日は、二人で帰ることは出来たけど真っ直ぐ家に帰ってお終いだったし。





 最初こそ、入学したばかりだし確かに私自身も忙しいのもあったから、しばらくすれば落ち着いて、また二人でゆっくりと過ごすことが出来るだろうと考えていた。



 だけど、ゴールデンウィークの直前にソウジくんはアルバイトを始め、これまで以上に忙しくなっていた。



 更に、ソウジくんから

「高校卒業を待たずに、家を出て一人暮らしを始めることに決めました。 目標金額を貯めて夏休み中には引っ越ししたいと考えてます」と打ち明けられた。


 家を出るのは高校を卒業してからと聞いていたから、当然びっくりして理由を聞いたけど

『勉強とアルバイトに集中したいからです』との説明だけだった。



 私の本音は、その理由だけでは全然納得出来なかったし、高校にさえ進めばソウジくんとはもっと沢山一緒に過ごせて、いっぱい遊んだり出来ると思ってたのに、まだ全然そんな風になれていないまま同居じゃ無くなれば、ほとんど会えなくなってしまう。 そう考えると簡単には受け入れられなかった。


 それに、ソウジくんの高校は共学で、考えるまでもなくソウジくんは高校でもモテるだろう。

 ソウジくんに好意を寄せる子が現れても、同居では無くなる私には対抗することすら出来なくなる。




『なんで? 卒業まではウチに居るって言ってたでしょ? そんなに焦らなくてもいいでしょ? それに、お金が必要なら、それこそウチで生活続けた方のが節約になるよ?』


「すみません・・・でも決めたことです」


『他にも理由があるの? もしかして、ママのこと? ママに何か言われたとか? まさか、ママがソウジくんのこと追い出そうとしてるの!?』


「そ、それは、違います。 アミさんのお母さんからは何も言われていません。 ただ、嫌われているのも事実ですので、家を出ようと考えている理由と無関係では無いことは認めます」


 こんな風に言われてしまうと、これ以上引き留める言葉を言えなくなってしまった。


 ママがずっとソウジくんに冷たく当たっていたのは事実で、ソウジくんの身になれば離れたいと思うのは当たり前のことだから。 これ以上、私が引き留めようとすれば、それは私の我儘でしかない。



 私はソウジくんと一緒に居たいだけなのに。

 別に恋人とかになれなくても、傍に居られればそれで満足だと思っていたのに。


 でも、その考えが甘かった、と認識を改めざるを得なくなった。





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