#33 中学卒業



 卒業式は3月の頭にあった。


 式は厳かに執り行われ、生徒会長であるソウジくんは、卒業生代表として答辞を述べた。



 ソウジくんの答辞を聞きながら、ソウジくんがウチにやって来た時のことを思い出していた。


 あれからもうすぐ1年になる。


 最初は、凄く緊張してまともに会話することが出来なかった。

 そして、男の子との同居が嫌だったし、周りにそれを知られるのも嫌だった。

 知られるのは今も嫌だけど・・・




 ソウジくんは、私と同じ歳でも私とは何もかもが違う人だった。


 姿勢が良くて、礼儀正しくて、真面目で勉強が出来て、いつも落ち着いていて、笑顔が優しくて。


 気になり出して、話してみて、自分の態度を省みて、どんどん惹かれて行って、好きになって。



 それまでの私の中学生活はずっと地味で、これと言って人に誇れるようなことは何もないし、本当に冴えない日々だった。

 でも、ソウジくんが来てからの3年生の1年間は、私にとってはとてもキラキラ輝いた、まさしく青春の日々だった。

 恋をしたのも初めてだったし、あんなに勉強を頑張ったのも初めてだった。

 全部、ソウジくんの影響だ。




 私はソウジくんの答辞をBGMにこの1年間を思い出していたら、ポロポロ涙が零れていた。


 あとでソウジくんにちゃんとお礼を言おう。

 1年間ありがとうって、言いたいな。








 式が終わり教室に戻ると、最後のHRがあった。


 公立高校の入試が数日後に控えている時期なので、まだほとんどの生徒は受験モードのままだった。

 先生も、卒業だからと浮かれたようなことは言わず、真面目なお話に終始した。



 HRが終わり解散となると、みんな其処かしこで抱き合ったり泣き合ったりしていた。 私も友達と一緒に先生の所に行って、お礼とお別れの挨拶をした。



 荷物をまとめて外に出ると、昇降口前や校門付近は沢山の人で賑わっていた。


 ソウジくんにもお礼を言おうと姿を探すと、ソウジくんは沢山の生徒に囲まれていて、とても個人的なお喋りとか出来る状況じゃなかった。


 今日くらいはソウジくんと一緒に帰りたいなと思い、卒業式に出席していたママには、友達とお喋りしたいからと話して、先に帰ってもらった。


 私はサクラちゃんや他の友達とお喋りしながら、ソウジくんがみんなから解放されるのを待っていた。

 ソウジくんは話しかけてくるクラスメイトや先生達に一人一人丁寧に挨拶をしていた。


 流石、生徒会長で学年1位でイケメン。


 普段は話しかけ辛かった人たちも、今日ばかりはとみんなソウジくんに話しかけている様だった。

 最初こそ丁寧に対応していたソウジくんも、気が付けばその輪に1~2年生たちも混ざり、ちょっとしたパニック状態になっていた。


 私は一緒にいたサクラちゃんたちに『ごめん、ソウジくん助けてくる!また連絡するね!』と言って、揉みくちゃにされながらソウジくんの所を一直線に目指した。



 なんとかソウジくんの所に辿り着くと、ソウジくんの腕を掴んで耳元に顔を寄せて、『ソウジくん、帰ろう!』と大きい声ではっきりと伝えた。

 ソウジくんは私の言葉を聞くと、優しい笑顔になって頷いてくれて、「みなさん、1年間ありがとうございました。 お元気で」と取り囲んでいた生徒達に挨拶して、私に引っ張られる様にその場を離れた。




 沢山の生徒や先生や保護者が居て注目を浴びる中、ソウジくんの腕を掴んだまま歩いた。


 私は無言で歩き続けて、私に引っ張られているソウジくんは周りから声を掛けられるたびに「ありがとうございます」とか「さようなら」と一言づつ返していた。



 校門から出てしばらくしてからソウジくんの腕を離した。


『ソウジくん、無理矢理連れ出してごめん。 収拾付かなくなってたから、なんとかしないといけないと思って』


「いえ、助かりました。 僕じゃ、あの状況はどうにも出来ませんでした。 正直、参ってましたので本当に助かりました」


『あの、それで・・・今日くらいは一緒に帰ってもいい?』


「はい、もちろんです。 一緒に帰りましょう」




 ソウジくんと歩きながら、ソウジくんがウチに来てからの思い出話をゆっくり話した。


 私が話す思い出話を、ソウジくんは相槌を打ちながら静かに聞いてくれていた。


 私とソウジくんの距離は、肩が触れあいそうになるほど近くて、こうやって通学路を二人で歩いて帰ることが出来たのがとても嬉しくて、でも今日が最初で最後なんだと思うと、寂しくもなった。



 家の近所まで来ると、公園に誘った。

 流石に一緒に家に入るのは、ママに何言われるか分からないので、いつもの様に公園で時間を潰してズラしてから帰ることにした。


 公園でベンチに二人で座ると

『ソウジくん、1年間ありがとう。ソウジくんが居てくれたから勉強頑張れたし、楽しく過ごせた。 ソウジくんが私の前に現れなかったら、多分きっと、私の中学の想い出って地味で暗くて冴えない寂しい思い出になってたと思う。本当にありがとう』と言って、ヒザに手を付いて頭を下げた。


「いえ!そんな、とんでもないですよ。 僕の方こそ、アミさんにはいつも助けて貰ってばかりでした。 夜食とか休日の食事とか、本当に助かりました。 それに、一人ぼっちで寂しく暮らすはずだったのが、アミさんのお陰で僕も楽しく過ごせました。 これまでありがとうございました」と、ソウジくんもヒザに手を付いて頭を下げてくれた。


 ちゃんとソウジくんにお礼が言えて、よかった。

 ソウジくんの応援がしたくてしてきた事も、感謝して貰えて凄く嬉しかった。





 こうして、私とソウジくんの中学3年生は終わった。

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