#32 バレンタイン





 冬休みが終わり3学期が始まると、私立高校志望の私は直ぐに推薦の入試があった。


 試験は正直言って手ごたえ無し。

 数学とか、見たことも無い様な問題がいくつもあって、こんなの解ける人いるの?って、そんな印象の試験だった。


 でも、2月に合否の発表があり、無事に合格だった。



 凄く嬉しくて、ソウジくんのところへ直ぐにでも行って報告してお礼を言いたかったけど、ソウジくんの公立高校の試験はまだ先なので、我慢した。


 代わりに

『○○学園(私の受験した女子高)合格しました。 ソウジくんが勉強教えてくれたお陰です。ありがとうね。 ソウジくんも頑張って下さい。応援しています』とメッセージを送った。


 ソウジくんからは

「合格おめでとうございます。 アミさんが自分で頑張ったから合格できたんです。 僕も負けない様に頑張ります」と返事が来た。


 ソウジくんは、私立は受けずに公立一本に絞っていた。

 もし公立が落ちたとしても、私立に行く余裕が無いから受ける意味が無いとのことだった。受験料だってバカにならいし。


 まぁ、公立落ちるとはとても思えないけどね。








 そして2月と言えば、バレンタインがある。


 私は受験が終わっているから、ちゃんと準備しようと考えた。

 と言っても、告白とかするつもりじゃなくて、ちゃんとした物を手作りで用意したいと思ってる。


 そして、エミもソウジくんにチョコ作りたいって言いだした。


 ま、まぁ、いい傾向・・・だよね


 ソウジくんとエミには仲良くなって欲しいと思ってたけど、なんかチョコ渡すって聞くと、複雑な気分だった。



 と、そんな気持ちになりながらも、エミと二人で、私のスマホで色々レシピを調べながら作戦会議した。


 エミは、チョコのミニケーキを作るらしい。

 私は、チョコクッキーとチョコのドーナツにしようと考えている。

 パパにもクッキーをお裾分け程度にあげるつもり。


 エミにパパの分を聞くと「あげない」と一言だけだった。

 でも、その時のエミの様子がなんだかトゲがあるような感じで、喧嘩でもしてるのかな?とは思ったけど、我儘なエミのことなので、関わっても面倒だから気にしないことにした。




 バレンタイン前日、この日は金曜日だったので、夕方学校が終わってから急いで帰り、台所をエミと二人で占領してケーキとクッキーとドーナツを作った。


 ママにも少し手伝って貰った。

 3人でそれぞれを試食してみたけど、どれも充分美味しく出来て、一安心できた。


 前日だったけど、パパにはその日の内にクッキーをさっさと渡した。



 ソウジくんには、エミと二人で深夜部屋に行きたいことをメッセージで送り、了承して貰った。


 ママには、エミは「学校の先輩にあげる」とだけ言い、私も『友達とみんなで交換しあう』と言って、特にママからは疑われる様なことは無かった。




 深夜、温かいお茶を用意してからエミを連れてソウジくんの部屋にお邪魔した。

 エミと二人でソウジくんの部屋にお邪魔するのは、初めてだった。

 というか、3人でお喋りするのも初めてだ。


『受験勉強大変なのに夜遅くにごめんね』


「いえ、大丈夫です。 最近ずっと気が張り詰めていたので、良い気分転換になります」


「先輩、お腹空いてませんか? 私、ケーキ作って来たんです! 食べてみてください!」


 私がお茶の準備をしている間に、エミがさっさと自分が作ったケーキを食べさせようとした。

『こらエミ! ソウジくん休憩の時間なんだから、無理に食べさせようとしないの!』


「大丈夫です。 お腹も空いてましたので、頂きます」


 エミはソウジくんの言葉を聞くと、お皿に乗ったチョコケーキをソウジくんの前に置き、ソウジくんにフォークを渡した。


 ソウジくんが一口食べる様子を、エミは目をキラキラさせて見ていた。

 私もソウジくんの反応が気になり、エミと同じように見ていた。


「とても美味しいです。 このケーキはエミさんが作ったんですよね?」


「うん!でもお姉ちゃんにも手伝って貰いました!」


 ママの名前を出さないのは、事前に二人で確認していた。


「なるほど。 うん、甘いだけじゃなくて、このしっとりしたスポンジの食感とか、僕は好きです。美味しいです」


 エミはその言葉を聞くと、振り向いて私の手を握り「美味しいって!好きだって!」と、とても嬉しそうだった。



 すっかりエミの空気に独占されてしまったけど、余り長居出来ないので、私も恐る恐る『あの、ソウジくん・・・クッキーとドーナツもあるの・・・今日はケーキでお腹一杯だと思うから、明日でも他の日にでも良いから食べてね?』と伝えた。


「いつもありがとうございます。 有難く頂きます」


 ソウジくんの返事ににっこりと笑顔で返して、その日はエミを引きづる様に早々に退散した。




 翌日

「クッキーとドーナツ、どちらもとても美味しかったです。 勉強ばかりしていると甘い物が欲しくなるので、丁度助かりました。ありがとうございます」と、何だかソウジくんらしいお礼のメッセージが来てて、ほっこり顔が緩んだ。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る