#31 合格祈願のお守り





 冬休み直前になると、完全に受験モード。


 みんなピリピリしている。



 学校では、漢字だ英単語だと小テストばかり。

 この時期になって志望校の変更(ランクを下げる)の話もちらほら聞く様になり、既に悲壮感漂わせてる人も居れば、ノーテンキにいつも通りの人も居たり。



 家では、ママが二言目には「ちゃんとやってるの? 高校受験で落ちるなんて恥ずかしいことしないでよ」と、相変わらずだった。 

 ママは、相手を認めてホメるとか出来ないのかな。

 1学期に比べてかなり成績も上がって来てるのに、やる気無くすようなことばかり言って来る。


 以前ならこういうのも気にならなかったけど、ソウジくんのことや受験のことなんかでママの嫌なところが目に付いて、私までイライラしてしまう。


 今じゃ、ママのソウジくんへの態度は、ただただ恥ずかしくてみっともないとしか思わない。

 良い大人のすることか?って思う。

 ソウジくんのがよっぽど大人の対応をしてるっていうのに。







 冬休みに入ると、朝から晩まで部屋に籠って勉強していた。

 クリスマスも正月も関係無しで。


 唯一、大晦日の深夜0時過ぎに、ソウジくんの部屋にコーヒー淹れて持って行き『明けまして、おめでとうございます』って新年の挨拶だけしにいった。


 ソウジくんの方は、あまり焦りとか悲壮感とか無くて、どちらかというといつも通り冷静沈着な感じ。

 まぁ、ソウジくんは志望校に対して学力的には余裕あるから今更焦るようなことは無いのだろうけど、でも私の場合は「大丈夫だ」と言われてても、焦りや不安で勉強せずにはいられなかった。





 そうそう、お正月と言えばびっくりすることがあったんだけど、私とソウジくんは留守番で、パパとママと妹のエミの3人が初詣に行ったんだけど、エミが私とソウジくんのそれぞれに合格祈願のお守りを買ってきてくれた。


 私に買って来るのは珍しいけど、それほど驚くことじゃない。

 でもソウジくんにも買っていたのにはビックリした。

 だって、エミはソウジくんのこと嫌ってると思ってたから。



 エミは、小さいころから我儘で自分勝手なところがあって、エミの我儘のせいで何度も私が我慢しなくちゃいけないようなことがあった。

 中学に入ってからも、学校でそんな風に振舞っていないか心配だった。

 実際に、入部したテニス部も夏休み前には辞めてしまい、頭の痛い思いをしたものだ。


 それが、初詣から帰って来ると、私の部屋にやってきて

「お姉ちゃんと安藤先輩のお守り買って来た」と言って、包みを2つ渡してくれた。


『え?え?? どういうこと?』


「だから、受験だから合格祈願のお守り。 安藤先輩に私から渡そうとすると、ママに何言われるか分かんないから、お姉ちゃんから渡してよ。 お姉ちゃん、先輩と仲良しでしょ?」


『・・・・・』

 色々と混乱して頭が追い付かなくなって、言葉が出てこなかった。


「そういうことだから、お願いね」


『ちょ、ちょっと待って! 色々確認したいんだけど・・・お姉ちゃんとソウジくんが仲良しって、どうしてそう思うの?』


「え?今更何言ってるの? よく夜中に安藤先輩の部屋に遊びに行ってたでしょ? 夏休みだってしょっちゅう先輩と一緒に学校行ってたのも知ってるよ?」


『ま、マジで・・?』


「うん。 あ、でも他の人は知らないよ。 もちろんママも気づいてないから」


『そ、そうなんだ・・・・』


「あと、私が先輩のこと家では無視してるから、私が嫌ってると思ってるかもだけど、別に嫌ってないからね。 先輩にも無視してたこと謝って許して貰ってるし、逆にママの目があるから無視してくれてていいって言われてるし」


『そ、そんなことになってるの!? 知らなかった・・・』


「そうだよ。 ママと違って私はちゃんと先輩と相談した上で、冷たい態度のフリしてるんだからね」


『そっか・・・エミもちゃんと考えてたんだね。 お姉ちゃん、気が付かなくて誤解してた。ごめんね』


「別に良いよ・・・それよりもお守り、先輩にちゃんと渡してね」


『ああ、それなら自分で渡した方が良いんじゃない? なんなら呼び出してあげようか?』


「え? 呼び出す?」


『うん。 ママには絶対に内緒だけど、私もソウジくんもスマホ持ってて、それで連絡取り合える』


「なるほど・・・」


『ママには言わないでよ!』


 そう言ってスマホを取り出し、ソウジくんに今から公園に出てこれないかメッセージを送った。


『今ソウジくんに、公園に出てこれないかメッセージ送ったから、返事来たら行っておいで』


「お姉ちゃんは行かないの?」


『私は勉強あるし、エミだってソウジくんと二人で話すくらい出来るでしょ?  って、もう返事来た。10分くらいしたら行くって。直ぐ行っておいで』


「まぁ、そうだけど・・・わかった行ってくる。お姉ちゃん、ありがとね」


『こっちこそ、お守りありがとうね』



 エミのお守りを預からなかったのは、エミを甘やかしたくなかったのと、エミがソウジくんと仲良くなってくれたらいいなっていう思いもあった。


 ウチの中で、ソウジくんの味方が私だけじゃなくて、他にも居るんだよって。






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