#30 もう一人の妹




 文化交流会から数日経った頃、学校帰りに近所の公園の前を通ると、下の妹のエミに声を掛けられた。



 この日は生徒会の仕事で遅くなり、既に辺りは暗くなり始めていた。


「安藤先輩、ちょっといいですか?」


「エミさん、どうしたんですか?こんな時間に」


「少し、安藤先輩に話しがあって待ってました。 家で話すとママが怖いし」


「そうでしたか。 遅くまで待たせてすみません」


「いえ・・・その、ベンチに座って・・・」


「ああ、そうですね」



 エミの方から話しかけられたのは、初めてのことだった。

 アミと違い、僕のことを避けていると感じていたので、僕も敢えて近づこうとはしてこなかった。


 そのエミから真剣な表情で話があると言われ、警戒しながら話しを聞くことにした。



「あの・・・安藤先輩のお母さんって、何ていう名前でした?」


「え?母の名前ですか? 安藤ミユキと言います」


「やっぱり、そうですか・・・」


 薄暗くて分かりづらかったけど、エミの表情が更に落ち込んだように見えた。


 そこで、エミが何を知りたかったのか、見当が付いた。


「もしかして、あなたの両親と私の母の関係を知ったんじゃないですか?」


「・・・・・」


「答え辛かったら、無理に答えなくても大丈夫です」

「あなたの両親は、このことを秘密にしようと考えてます。 僕も自分から話すつもりはありません」


「でも・・・・」


「でも?」


「それでは、安藤先輩はずっと被害者のままです・・・それでも平気なんですか?」


「平気かどうかじゃないんです。 一人では生きていけませんので、問題を起こしたくないのです」


「じゃぁ、お姉ちゃんは? お姉ちゃんは知ってるんですか? お姉ちゃんにも言わないんですか?」


「アミさんは・・・知りません。いずれ話す必要があるとは思ってます。 でも、今は無理です。 お互い受験生だし、僕も今、家を追い出されるわけにはいきません」


「そうですか・・・」

「あの・・・今までごめんなさい・・・冷たくして、家でも無視して・・・」


「そのことなら大丈夫です。気にしてませんから」


「でも・・・」


「本当に大丈夫ですから。 それに、出来ればこれからも今まで通り家では話をしないようにして欲しいですし」


「それはやっぱり、ママが居るから?」


「はい、そうです」


「分かりました。 気を付けます」


「ありがとう。 もし、このことで何かあれば遠慮なく相談して下さい。 一人で抱え込むには荷が重いと思います」


「はい・・・そうします」




 ここまで話をすると、エミの表情は幾分かマシになったように見えた。


「もう遅い時間なので、先に家に戻って下さい。同じタイミングで帰ると何か言われそうなので、僕はここで時間を潰しますので」


「ごめんなさい、そうします。 ホントはずっと知らないフリしてようと思ってたんです。でもこの事ばかり考えちゃって・・・・話を聞いてくれてありがとう・・・・」


 エミは、最後何か言いたそうにしながら、トボトボ歩いて行った。



 とりあえず、エミは理解してくれたように思う。

 あの様子なら、言いふらしたり騒ぐことも無いだろう。


 そんなことをベンチに残って考えて居ると、エミが走って戻って来た。


「あの!安藤先輩は、私のお兄ちゃんなんですよね!?」


「・・・はい、エミさんもアミさんも僕にとっては腹違いの妹です」


「でも、このことは内緒なんですよね?」


「今は内緒にしてください」


「分かりました!」


 そう言って、今度は走って行ってしまった。










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