#29 文化交流会




 夏休みが終わり2学期が始まると、先生や周りのクラスメイト達も一気に受験の空気になっていった。


 私は、ソウジくんのお陰で順調に勉強が出来ていると思う。

 担任の先生からも「まず大丈夫だろう」と太鼓判を押して貰えた。


 ソウジくんの方も、問題無いそうだ。

 寧ろ「もう少し上を目指しては」と薦められたらしい。


 結局、通学のことを考えて市内の公立高校への志望は変更しないと言っていたけど。




 週末の深夜にソウジくんの部屋にお邪魔するのも、最近は控えめにしている。


 夜食なんかの差し入れは用意して持って行くけど、居ても5分程度で部屋を出るようにした。

 ソウジくんの勉強の邪魔したくないし、やっぱりママの目が怖いのもあるし。


 代わりに、スマホでのメールのやり取りは少し増えたと思うけど。

 ソウジくんも、返事だけの短い文面だったのが、多少は長い文章のメールをくれるようになった。




『ソウジくんは、高校行っても部活はやらないの? 前の中学でバスケ部だったんでしょ?』


「そうですね。 部活はせずにアルバイトをしようかと」


『やっぱりそうなんだ。 公立だとアルバイトとかOKなのかな』


「詳しくは僕も分かりませんが、許可を取れば出来るのではないかと」


『でも帰宅部になれば、たまには一緒に帰ったり寄り道して遊んだりできるかな』


「そうですね。 今よりは時間に余裕が持てるようになるかと思いますので、少しなら」


 こんな風に、よく雑談メールをやり取りしてる。












 10月になると、文化交流会があった。


 私は、文芸部としては最後の活動になる。

 文芸部は、朗読会をやった。


 文芸部の教室を解放してお客さんを招いて、詩集やエッセイを一人づつ音読して聞かせるイベントで、文芸部なんて地味だし日陰の文化部だと思っていたけど、当日は結構な客入りで、用意していた客席が足りず慌てて隣の空き教室からイスを運んだりもした。



 私は、フランス文学の「悪の華」という詩集を朗読した。


 正直言って、内容は難しくていまいちよく分からなかったけど、タイトルに惹かれて決めた。

 今の私たちの年頃にありがちな、厨二病というやつ。



 その日の夜、珍しくソウジくんの方からメールが来た。


「文芸部の朗読会、見学させて頂きました。 アミさんの「悪の華」、とても感情が込められてて惹き込まれました」


『ソウジくん来てくれてたの!? 緊張しすぎて客席全然見れなかったから、気が付かなかったよ』


「はい、後ろの方の席でしたけど、座ってました」


『そうだったんだ。 ありがとうね』


「いえ。それにしても、どうしてボードレールを選んだんですか? 何か悩みでもあるのでしょうか」


『え?どうしてって、選んだ理由はタイトルのインパクトに惹かれただけで、特に他には理由は無いよ』


「なるほど、それなら納得です」


『私の事よりも! ソウジくんの歌また聴けて、嬉しかった!』




 そう、ソウジくんは生徒会長として、再び全校生徒の前で歌を歌ったのだ。


 文化交流会の開会式の時、校長先生とPTA会長の挨拶の後、生徒会長であるソウジくんが開会宣言を行ったんだけど、その時に生徒会役員の2年の子がピアノ伴奏して、ソウジくんは独唱した。


「あれは仕方なくだったんです」


『なんかそんな気がした。 先生とかから無理矢理歌わされたの?』


「どうも校長先生が生徒会選挙の時の歌を気に入ったらしくて、顧問の高松先生にリクエストしたそうです」


『校長先生のリクエストだったの!? 凄いね・・・』


「はぁ。それで選挙の時と同じ中島みゆきの中から有名な曲を選びました」


『今度は知ってる歌だったよ。「糸」っていう曲だよね』


「はい、そうです。 曲はピアノ伴奏をしてくれた子と相談して決めました」


『じゃぁ練習とかもしてたの?』


「そうですね。 3回ほどピアノに併せて練習しました」


『なんか、生徒会も大変なんだね・・・歌の練習とか生徒会の仕事じゃないのに』





 実を言えば、当日は朝から朗読会のことで緊張しっぱなしだったけど、ソウジくんの歌のお陰で私は気合が入り、無事に朗読会に挑むことが出来た。

 本当は、そのことを伝えたかったけど、なんか重く思われそうで言うのは止めた。













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