#25 劣等感




 春から中学に入学した。

 小学生と違ってお姉ちゃんと同じ中学生ということで、私は部活に恋愛に自分も少し大人になれるかな、と期待に胸を膨らませていた。


 しかし、この期待と膨らませていた想いは、少しづつ萎んでいった。


 その原因は、お姉ちゃんともう一人の同居人の存在。



 お姉ちゃんは、妹の私から見ても凄く美人だ。

 1年生の間でも有名なくらい。


 入学してしばらくすると、クラスの子たちからよく言われた。

「間宮さんのお姉さんって、あの間宮アミ先輩なの?」

「あんな綺麗な人がお姉さんだなんて羨ましい」

「間宮のお姉さん、すげぇ美人だな!」

「エミちゃんの家に遊びに行ったら、お姉さんと会えるかな?」


 最初の4月5月の学校に慣れていない頃は、友達だけじゃなくて他の小学校出身の知らない人達からも話しかけられ、それが嬉しくて自分の事の様に美人のお姉ちゃんのことを自慢した。


 でも、そればかりが続くと嫌でも気づかされる。

 みんな、美人のお姉ちゃんに興味があって、私には興味が無いこと。

 あくまで”間宮アミの妹”としか見てないこと。


 そのことに気が付くと、お姉ちゃんの話題を振られる度に「お姉ちゃんは美人なのに、妹は大したことないな」と言われてるように思えて、お姉ちゃんのことを聞かれるのが、物凄いストレスになっていった。 ホント「もういい加減にして!」と叫び出したくなるくらい。



 部活はテニス部に入ったんだけど、部活の方でも同じだった。

 特に、男子の2年3年の先輩から、お姉ちゃんのことを聞かれたり、「友達になりたいから紹介してくれ」とか言われたりするのは、先輩だから断るのも大変で物凄く苦痛だった。


 更に女子の先輩からは、直接言われた訳じゃないけど

「間宮アミの妹だからって調子に乗ってる」

「○○先輩(男子テニス)に声掛けられててムカつく」

「本人は大したことないのにね」

 と、こんなこと言われてると噂を何度も耳にした。


 テニス部では、ずっとそんな状況が続いてしまい、結局夏休み前に退部した。



 お姉ちゃんが悪い訳じゃないのは分かっていても、どうしても「お姉ちゃんが居なかったら、もっとマシだったのに」と考えてしまう。






 そしてもう一人、3月に突然やってきた同居人。 安藤ソウジという人。


 私は最初から男の人との同居は嫌だった。

 でも、片親だったのにお母さんが死んで、身寄りが居なくてウチで預かることになったと聞いては、拒否することが出来なかった。

 だから、なるべく関わらない様にすればいいか。

 もし、相手から近づいてくるようなら、パパやママに言いつければいいか。

 その程度に考えていた。



 この同居人の最初の印象は、貧乏臭くてダサくて、なんか不幸オーラのある人。

 だから最初は全然興味が無かった。

 ママはあからさまに嫌っていたし、私も関わらない様にしていた。


 実際、相手から絡んでくることは全く無かったから、家の中でも存在していないかのように無視した。



 だけど、学校ではそうはいかなかった。

 何故なら、この安藤ソウジと言う同居人は、学校ではあのお姉ちゃん以上に有名人となったから。


 毎日の様に、嫌でも耳に入ってくる同居人の噂話。


「生徒会長、すっごいイケメン!」

「安藤先輩のあの歌、凄い感動した!」

「先輩、彼女とか居るのかな?」

「頭も凄い良いらしいよ!学年1位だって!」


 特に女子の間では、みんな芸能人の話しでもするかのように毎日盛り上がっていた。

 中には、3年の教室まで見に行ったり、声掛けて会話したことを自慢する人も出てくる始末。


 私は、この状況に恐怖した。

 ただでさえ、お姉ちゃんのことで散々だったのに、有名人の安藤ソウジと一緒に住んでいることが知られたら、とんでも無いことになるのが目に見えていたから。


 幸い、お姉ちゃんも同じように考えていた様で「ソウジくんと同居してることは、学校では絶対に言ったらダメだからね」と言われ、私も素直に同意した。 お姉ちゃんの話しでは、安藤ソウジも同意してて内緒にしているらしい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る