#24 プログレス



『ねぇソウジくん』


「はい、なんでしょう」


『ソウジくんの歌が聴きたい。 生徒会の選挙の時に歌ってたでしょ? 凄く感動したの。 わたし、もう1度ソウジくんの歌が聴きたいの』


「はぁ・・・わかりました。 サンドウィッチのお礼に1曲だけ。 なんでも良いですか?」


『うん!』


 私はキチンと聞くために、寝転んでいたのを体を起こして、ソウジくんの手を握ったまま座り直した。




 ソウジくんは「んっんっ」とノドの調子を整えてから、顔を空の方へ向けて、静かに歌い出した。



「ぼくらは位置について~♪ 横一列でスタ~トを切ったぁ~♪」


 ソウジくんは歌いながら、私の手を握り返す様に手に力が入った。



「ずっと探していた~ 理想の自分って~ もうちょっとカッコよかたけれど~♪」


 サビでは、ソウジくんの高音の声が、空に綺麗に響いていた。




「あ~と一歩だけ~前に、進もう~♪」



 近くを散歩していたらしいご夫婦が、パチパチと拍手しているのが聞こえた。



『・・・・』

 ソウジくんの歌が終わっても、私は言葉が出てこなかった。

 感動したのはもちろんだけど、何と言うか、圧倒されて心臓の鼓動がバンバン速く鳴って、ノドから声が出せなかった。



「なんだか、恥ずかしいです・・・」


 ソウジくんはそう言って、テレくさそうにハニ噛んで、顔を見られたくないのか私と反対の方向に顔を向けていた。


 私は・・・気が付いたら、目から涙が零れてた。


『ソウジくんの歌、凄い・・・わたし、人の歌聴いて、泣けたの初めてだよ・・・』


「え!?」


 ソウジくんは私の言葉を聞いて、ビックリした様子で私に顔を向けた。


「いや、そんな泣く程のものじゃないですよ・・・?」


『ううん!凄かった!感動した! あの、その、兎に角凄かった! あ~もう!本当はもっと上手にホメたいのに、言葉が出てこないの! 選挙の時も感動したけど、今日の歌はもっと凄かった!』


「そうですか・・・ありがとうございます」


『ううん!私の方こそ、ありがとう!』

『今の歌って、むかしテレビで何回か聴いた事ある。 NHKだったかな?』


「多分そうです。 NHKの番組のテーマソングでしたね。 スガシカオのプログレスっていう歌です」


『やっぱり。 凄く良い曲だね』


「そうですね。 僕は歌詞が好きです」



 なんだろう

 単純に歌が上手でとか、歌詞が良くて感動したっていうだけじゃなくて、ソウジくんの境遇とか知ってるからか、なんだかソウジくんの叫びというか、心から訴えている様な、そんな風に聞こえて、それで泣けてきちゃったんだと思った。


 今日聞いたソウジくんの歌は、多分この先、私は大人になっても忘れられない、と思う。





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