#19 糞共の住む家



 父は、最初こそ気にかけてくれているようだったが、最近は会話することもほとんど無い。


 まぁ、コイツに誠実さとか親としての責務なんて求めたところで無駄だ。まともな奴だったらそもそも浮気したり妊娠中の妻を捨てたりしない。所詮その程度の糞だ。

 僕を引き取ったのも、一時的な気の迷いか、表面上だけでも親の責任果たしたフリでもしたかったのだろう。



 あの女(アミの母親)も同じだ。

 コイツは僕が父の実の息子だと知っている。

 知っているからこそのあの態度だろう。


 自分のしてきた事の罪の意識なんて皆無だ。

 そんなものあったら最初から妊娠中の妻を持つ男に手なんか出さない。

 それに自分まで妊娠するとか、正気の沙汰じゃない。



 妹のアミとエミに関しては、正直戸惑っている。

 エミは相変わらず、僕のことを嫌っているのか距離を置いている。

 こちらから関わろうとは思わないが、子供故の空気を読まない無邪気さがあり、常に気を許すことが出来ない。




 そして問題はアミだ。


 中間試験の結果が出た頃だっただろうか、アミの態度が変わって来たのは。



 今まで僕の食事はレトルトや冷凍食品ばかりだったのに、急に手作りのチャーハンを作ってくれたり、夜中におにぎりなんかの差し入れを持ってきたりするようになった。


 あの女(アミの母親)の料理だったら迷わず捨てるが、アミは実の妹だし、この子には罪が無いことは解ってる。

 どちらかというと僕と同じ犠牲者とも言える。 とは言え、特に不幸な境遇でも無いだろうから犠牲者とも言い切れないけど。



 最初は、血の繋がる兄妹であることを知っての態度の変化かとも思い、警戒しつつも何を考えているのか知りたくて、アミに併せて色々話しを聞いてみた。


 しかし出てくる話は、僕への質問ばかり。

 僕に対する警戒心も感じられない。

 多分、秘密は知られていない。



 なんともノーテンキでお気楽な子なんだろう


 コレがアミに対する最初の印象だった。

 血の繋がる実の兄に、それを知らずに恋バナとか。

 こんなのでこの子は大丈夫なのか?と思わず心配になってしまうほどに。


 まぁ、心配してしまうのは、僕の中で妹だと認識しているからだろう。

 赤の他人だったら、適当に相手して放置だ。







 アミは毎週末、僕の部屋にやってきた。


 何度も二人きりで話をしてる内に、僕も警戒しなくなっていた。


 毎回、夜食やお菓子なんかを差し入れてくれるのは正直有難かったし、父やあの女に対してずっと張り詰めていた気持ちが、お気楽なアミと会話をしていると自然とコチラも気持ちが緩んでしまい、僕にとってそれは貴重なリラックス出来る時間となっていた。


 今はコレでもいいだろう。

 血の繋がる兄妹であることを隠しつつ、友好的な同居人として交友を続けるのは。


 しかし、アミの両親は僕にとって母のカタキとも呼べる糞共だ。


 当初は利用出来ることがあるかもしれないと考えて、なるべく敵対しないように様子を見ていた。


 だけど、最近はアミの方から歩み寄ってきて、それを僕自身も悪く思っていない。

 むしろ助かっている。 食事もそうだし、精神的にも。




 利用するだけ利用してやろうか

 それこそ、アミを使えば奴らにとって最悪の復讐も可能ではないだろうか


 いや、奴らへの罰にアミを巻き込んではいけない

 アミには罪は無く、僕にとっては実の妹だ



 最近は、こんな考えがぐるぐる回っている。





 そもそも、母の願いは、僕が大学へ進学し立派な成人になることだ。

 母は復讐を望んでいなかった。


 あくまで僕個人の私情で、それに固執して本来の目標を見失っては、母との誓いを果せない。


 と、ここでキッチリ割り切れれば、本当に楽なんだけど


 でも、奴らの顔を見る度、奴らの声を聴く度に腸が煮えくり返る様に感情が沸騰しそうになり、冷静を装うのに必死だ。


 どんな屈辱にも耐える決意をしていたが、糞共の住む家は想像以上に過酷だった。

 もしアミが居なかったら、もしかしたら今頃感情が爆発していたかもしれない。


 まだ1年目だというのに、なんとも自分が情けない。








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