#14 手作りクッキー





 ソウジくんの部屋に押しかけて二人での勉強会をして以来、週末になると夜中にソウジくんの部屋にお邪魔するようになった。ソウジくんは、嫌がらずに毎回部屋に入れてくれた。


 パパとママが寝静まるのを待って、台所へ降りておにぎりを作ったり、お菓子やコーヒーなんかを用意して、お夜食と言ってはソウジくんの部屋に持ち込み、二人でつまみながらお喋りした。

 もちろん勉強もした。 お陰で宿題は捗り、勉強が苦手な私はとても助かった。




 最初の数回はずっと緊張しっぱなしで、敬語が抜けきれなかったけど、今は大分マシになったと思う。 ソウジくんは、相変わらず敬語だけど、何となく堅さは抜けてきたように感じた。



『ソウジくんはよく図書室に居るけど、読書が好きなんだね』


「そうですね。図書室の本はお金がかからないので、暇つぶしにはもってこいです」


『へー どんなジャンル読んでるの?』


「今は歴史小説を読んでます。司馬遼太郎ですね」


 そう言って、借りてきた本をバッグから取り出して、見せてくれた。


『私も読書好きだけど、歴史小説は読んだこと無いなぁ。なんか歴史っていうだけで難しそうだし』


「面白いですよ。それにそれほど難しくはないですよ。 歴史っていっても物語ですからね。そういえばアミさんは文芸部でしたね」


『うん、読書好きだったから入ったの』

『でも司馬遼太郎かぁ、名前だけは知ってたけど、私も今度読んでみようかな』


「是非読んでみて下さい。どの作品も面白いですから」



 こんな感じで、どうでもいいような話題を取りとめもなくお喋りして、そんな時間がとても楽しかった。







 期末テスト前には、私からお願いして勉強を教えて貰った。

 家ではママの目が有るため、試験勉強期間は、学校の図書室で一緒に勉強した。


 この時ばかりはお喋りは控えめにして、勉強に集中した。


 お陰で、期末テストでは私の順位が上がった。

 1年2年も含めて、過去最高の順位だった。

 ソウジくんはやはり1位だった。



 ソウジくんに勉強を教えて貰ったお礼がしたくなり、クッキーを焼くことにした。

 ママには『文芸部のみんなで食べる』とウソをついて、土曜日の昼間に沢山作った。



 その日の深夜、小分けにラッピングしたクッキーを沢山紙袋に入れて、アイスコーヒーも用意してソウジくんの部屋にお邪魔した。



『あの、ソウジくん。 この間の期末、ソウジくんのお陰で、凄く良かったの。今までで一番良い順位だったの。 それで、何かお礼をって思って・・・』


 そう言って、紙袋をソウジくんに差し出した。


 ソウジくんは紙袋を受け取り、中身を覗くと

「あ、これ、今日のお昼甘い匂いしてたのって、アミさんがクッキー焼いてたからだったんですね」


『うん・・・手作りだから、お店に売ってるのよりも美味しくないけど・・・』


「ありがとうございます。 でも、こんなにいっぱい、良いんですか?」


『うん。全部ソウジくんに食べて欲しくて、いっぱい作ったから』


「早速食べても良いですか? 一緒に食べましょう」


『うん!』


 ソウジくんは、紙袋から1つ取り出し、テーブルの上でラッピングを解いて、クッキーを1つ手に取り口にした。


 私は、ソウジくんと自分の前にそれぞれアイスコーヒーを置いて、ソウジくんに続いてクッキーを1つ手に取った。


「うん、美味しいです。 夜中なのにいっぱい食べてしまいそうです」


『ふふふ、よかった。 でも私も太らない様にしないと・・・』


「そういえば、お母さんには何か聞かれたりしなかったんですか? 手作りのクッキーを作ってたら、誰かへのプレゼントじゃないかって疑われそうですが」


『うん。でも、文芸部のみんなで食べるって言ったら、それ以上は聞かれなかったよ』


「なるほど、それは良い隠れ蓑でしたね」


『え?カクレミノ?なにそれ?』


「えーっと・・・知られたくない事を隠すために、別の物を使う例えです」


『う~ん、難しくてよく分かんないよ・・・』


「ま、まぁ、気にしないで下さい」




 この日は勉強もせずにずっとお喋りしていた。

 ソウジくんがたまに見せる笑顔やテレた顔がとても素敵で、楽しくて楽しくて、自分の部屋に戻りたくなくて。


 そんな私に、ソウジくんは嫌な顔せずにずっと付き合ってくれた。


 その内にずっと座りっぱなしで疲れてしまい、私もソウジくんも畳の上で寝転がってお喋りを続けた。


 そしていつの間にか、眠ってしまった。








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