#08 心変わり



 ソウジくんは生徒会長に任命されてからも、放課後の時間は図書室で読書をしている様だった。


 部活の時間に図書室へ行くと、以前と同じように読書をしている姿を何度も見かけた。

 ただ、以前と違い生徒会長として有名人になったため、図書室でもよく声を掛けられている様だ。




 私との関係は相変わらずで、学校では目を合わせることはなく、家でも会話をすることは無かった。

 たまに、朝、家を出るタイミングが同じになっても「おはようございます」と一言挨拶をするだけで、ソウジくんは一人で先に行ってしまった。





 ソウジくんは生徒会長としてだけではなく、やはり学業の方も優秀だった。


 3年になって初めての定期試験だった中間試験では、学年1位。


 ウチの中学では、学年順位が公表されることは無かったけど、同じクラスで1位が出た為、クラスの中で話題になり、私も知ることができた。



 因みに、私は学年では真ん中より少しだけ上の辺りだった。


 家に帰るとママに小言を言われたけど、ママはソウジくんの成績を知らない様で比較されることは無く、ホッとした。






 自室のベッドで寝転がりながら、ソウジくんのことを考えた。

 最近はずっとソウジくんのことばかり考えて居る。



 お母さんに先立たれて天涯孤独。

 預けられたウチでは冷たい扱いをされている。

 学校では、経済的な理由で部活をやらずに、代わりに生徒会長になった。

 成績は学年で1位。


 そして、顔はイケメンで身長も180近くあり、噂では体育では運動神経も抜群なそうだ。


 複雑な事情を抱えながらも、それを感じさせない優秀さと真面目な態度。

 学校では、彼を非難したり妬む様な話は聞いたことが無い。




 私よりも何倍も優秀で、沢山の同級生から注目を浴びる彼のことを、最初に私は迷惑だと思い、口止めをお願いした。


 当初は後悔もあったけど、今は逆に良かったと思ってる。

 但し、理由は違うけど。


 当初は、そんなことに拘る自分を小さい人間なんだと嫌になったけど、今は、あんなに優秀で人気者と同居してることが知られたら、とんでもないことになるのではないか?という恐怖がある。








 彼のたまに見せる優しい笑顔を思い浮かべた。


 多分、ソウジくんは今の私の様なくだらない悩みなんてなくて、もっと現実的な問題で苦労しているんだろう。


 亡くなったお母さんの事、進学の事、経済的な事、食事の事、そしてこのウチの家族との事。





 ソウジくんを見ていると、ドキドキすると同時にやりきれない罪悪感が湧いてくる。


 彼は、誰が見ても文句の付けようのない努力と苦労を重ね、そして優秀な結果を残している。


 なのに家では冷たく扱われて、誰も彼を褒めようとはしない。 というか興味すら持っていない。



 ただ、それを黙って見ているだけの自分が、とても恥ずかしく、惨めだと思った。


 きっと、私は今ソウジくんに恋している。 それと同時に自分の態度や彼に言った言葉に、恥ずかしくなっている。



 惨めで情けない私の恋。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る