#07 当選
ソウジくんが生徒会役員に立候補し図書室で会話をしたけども、それ以降、学校でも家でも特に変わったことは無く、いつもと同じ日々が過ぎて行った。
ソウジくんの生徒会役員の選挙は結果から言うと、ダントツのトップで当選し、生徒会長に任命された。
知名度は無い様に思われていたけど、その容姿で新学期当初から女子たちの間で話題の中心になっていたこともあり、予想していたよりも知名度は高かった。
そして何よりも、全校集会での演説のインパクトが決定打となった。
ソウジくんの演説は、最初のトップバッターだった。
「初めまして。 この度生徒会役員選挙に立候補しました、3年1組、安藤ソウジと申します」
ソウジくんはよく通る声で、一言一言、間を取りながらゆっくり話した。
「私は、この4月に転校してきたばかりで、恐らくみなさん、誰も私のことはよく知らないかと思います。 私もこの学校のことは、よく知りません。 なので、説得力のない抱負や方針は、ココでは言いません」
「ただ、折角みなさんの前に立つお時間を頂きましたので、1曲歌います」
そう言って、ソウジくんは演台の前に周り、後ろで手を組んで、マイクを使わずにアカペラで一小節歌った。
ソウジくんの歌う歌は、数年前にCMか何かで聞いた覚えがあるけど、曲名や誰の歌なのかは分からなかった。
でもソウジくんの歌声は、胸を締め付けられるような力強さがあって、職員を含め全校生徒だれも声を出せずに聞き入っていた。
ソウジくんの後で演説した他の立候補者たちは、誰一人ソウジくんのインパクトを上回ることが出来ず、見ていてかわいそうになるくらいだった。
全校集会が終わり教室に戻ると、各クラスで投票が始まった。
一通り全員の投票が終わると、担任の先生が「安藤の歌、凄かったな。 あの歌、中島みゆきさんっていう有名な歌手の歌なんだけど、曲名しっている人いるか?」とクラス全員に向かって問いかけた。
誰も答えられない中、ソウジくんだけ挙手をしていた。
「いや、安藤は知ってて当たり前だろ」と先生はツッコミを入れ、クラスメイトたちからクスクスと笑い声が聞こえた。
「あの歌は、中島みゆきの「ファイト」っていう曲で、多分先生が生まれるよりも前に流行した歌謡曲だ。安藤はよく知ってたな?」
「はい、母が好きで、よく家で聞いていましたので」
それを聞いて、思わずソウジくんの顔を凝視してしまった。
先生も同じ様で、一瞬固まっていた。
「そ、そうか。 いい歌だよな。うん」
「はい、僕もそう思います」
教室では、一部重い空気になってしまったけど、選挙では当初の予想を覆し、ソウジくんが大差をつけてトップ当選した。
翌日、朝のHRで当選結果を先生が発表しソウジくんがトップ当選したことを知ったのだけど、その時のソウジくんは表情一つ変えることなく席を立ち、クラスメイトたちに向かって「ご協力ありがとうございました」と頭を下げた。
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