#06 立候補
翌朝もソウジくんは先に家を出ていた様で、私はエミと二人で登校した。
教室に入ると、ソウジくんは席に座り、読書をしていた。
授業中は、いつものように背筋を伸ばして綺麗な姿勢でノートをとったり、先生の話を聞き入ってるようだった。 指名されても一切慌てることなく、落ち着いた口調で全て完璧に回答していた。
この様子だけで、彼が非常に高い学力を持っていることが、誰の眼にも明らかだった。
容姿端麗で背も高く、そして真面目で勉強も出来る。
彼が女子生徒たちから騒がれる存在になるのは、直ぐだった。
休憩時間の度に、他のクラスや後輩の女子が教室に覗きに来てソウジくんを見ては、キャァキャァ騒いでいた。
それでも彼は、話かけてくる女子たちに一人一人丁寧に真面目に答えていた。
しかし、あの優しい笑顔を誰かに向けることも無かったし、教室で私と目を合わせることも一切無かった。
そんな3年の新学期をスタートさせてから1週間程経った頃、HRの時間に先生が生徒会役員の立候補と推薦を募った。
そのこと自体は数日前から「希望者は考えておくように」と予告されていたことなので大した話ではないのだけど、驚いたのは、ソウジくんが挙手し「立候補します」と申し出たからだ。
それに対し先生は「ホントに大丈夫か? 前にも言ったが、転校生だと選挙で色々不利だぞ?」と事前に相談を受けていた様で、改めてその意思を確認していた。
ソウジくんも「大丈夫です」と一言だけ返事をし、ソウジくんの立候補が正式に決まった。
推薦人が必要だったけど、友達の居ないソウジくんの代わりに先生が学級委員の坂崎くんにお願いして、推薦人の件も解決し、クラスとしてソウジくんの立候補を協力することになった。
とは言っても、特に何かする必要があるわけでもなく、全校集会の時に立候補した本人が全校生徒の前で演説して、投票が行われるだけだった。
その日、部活の時間に先日図書室で借りた資料を図書室に返却しに行くと、以前と同じようにソウジくんが居て、読書をしていた。
カウンターで返却手続きを終えると、一緒に来ていたサクラちゃんに先に戻って貰うようにお願いし、私はソウジくんの向かいの席に座った。
正面から見るソウジくんは、やはりとても綺麗な顔をしていた。
『あ、あの・・・ソウジくん』
「あ、すみません。本に集中していて気が付きませんでした」
『あ、いえ、邪魔してごめんなさい・・・』
「いえ、こちらこそ。 それで何か用事でも?」
『えっと・・・どうして、生徒会役員に立候補をしたの? 先生が言ってた様に、転校生だと当選は難しいんじゃないかな・・・』
「そうですね。無理かもしれません。 でも、部活が出来ない僕は、他のことで内申点を稼ぐしか無いんです」
『え?部活出来ない? え?え?内申点???』
「はい」
『どうして、部活出来ないの?』
「中学の部活動は、どうしてもお金かかります。 道具やユニフォーム、試合があれば移動の交通費も。 でも僕には経済的な余裕はありませんので、実績を残せるような部活動は出来ません。 なので、代わりに生徒会活動に目を付けました」
『・・・・』
ソウジくんの話を聞いて、言葉を失ってしまった。
まさしく”絶句”した。
同じ歳なのに、私とは全く違う考えを持っていることに、ショックだった。
「すみません、お恥ずかしい話を聞かせてしまい・・・今の話は忘れて下さい」
『いや、そんな・・・』
「あ、そういえば、先日アミさんからお願いされました件ですが、先生にもお願いして、ちゃんと理解して貰えました。多分、もう大丈夫だと思うのですが、余計なお世話かもしれませんが、エミさんにも念のため話しておいた方が良いかと思います。 ただ、僕は嫌われている様ですので、出来ればアミさんからの方が良いかと・・・」
突然話題が変わったと思ったら、先日お願いした口止めの件で、しかも私は気が付いていなかった妹エミへの口止めのアドバイスだった。
『そ、そうだね! 今日帰ったら話してみる・・・』
「はい」
そう返事をしたソウジくんは、あの時の様なとても優しい笑顔を私に向けてくれた。
しばらく見惚れてしまいそうだったけど、無理矢理意識を戻して
『読書の邪魔してごめんなさい。 話し聞かせてくれてありがとう』
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」
ソウジくんはそう言って座ったまま会釈をしてくれた。
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