36. Sincerely
お兄ちゃんへ。
お兄ちゃんて呼び方、なんだか少し、くすぐったい。
でも、仕方ないよね。
私は、あなたの名前を知らない。
あなたも多分、私の名前を知らない。
これを読んでるってことは、私は無事(?)に死ねたってことだね。
お兄ちゃんはきっと、私が死んだことを自分のせいだと、自分を責める。
私にはわかる。
お兄ちゃんはきっと、そういう人。
そもそも自分の力の及ばないことに対しても、まるで自分のせいみたいに、悔やんで、自分を責める、やさしい人。
大丈夫。
責めないで。
これは私が覚悟していたこと。
この島へ向かうと決めた時から、誰にも変えることのできない覚悟を、してたことだから。
私は、記憶にないくらい小さい頃からずっと、あの人に会いたい、あなたのパパに会いたいって、ママのなげきを聞きながら育ってきた。
そう。
私のママは、その後の私とおんなじで、あの人の愛人で、私はあの人の、娘。
ひどい母親だよね。
普通は少し分別がつく歳になるまで、そういう事って隠しとくべきじゃない?
しょうがない。
それができない人だった。
それくらい、弱い人。
でも、いっつも泣いていたけど、私をちゃんと育ててくれた、私の大好きな人。
そして、そのママのなげきは、なんだか呪いみたいで、私も、もろに影響を受けちゃったのかな。
私もずっと、あの人に会いたかった。
ママが死んじゃったあと、夜の街であの人に偶然出会えた時は、私は生まれて初めて、最初で最後に、神さまに感謝した。
私は、本当に本気で、あの人が好きだった。
それはあの人が私の父親だったからなのか、私がママの想いを背負いこんでしまったからなのか、私自身があの人を男として純粋に求めていたのか、その、全部なのか。
それは、もう、わからない。
でもね、わからなくてもいいかなって、思ってる。
大好きだった。
それがあればいい。
どんなにゆがんだ形だとしても、大好きだって気持ちさえあれば、いつか、つながれる。
つながる、きっかけになる。
だから、あとは私と、私の中の二つの大好きが、ぜんぶ一緒に、つながるだけ。
お兄ちゃんは、あの人の骨を必ず持ってきてくれる。
それで、私と、ママと、あの人は、やっと3人で、家族として、つながれる。
翻弄されっぱなしだったあの人の意志なんて、これっぽっちも邪魔のできないところで。
やっと。
本当に、やっと、だよ。
あ、もう一つだけ、神さまに感謝しなきゃいけないこと、あった。
お兄ちゃんに出会えたこと。
最後にちゃんと、きょうだい3人、知り合えたこと。
お母さんは違うけど、あの人の遺したきょうだい3人で、つながれたこと。
船の上で初めてお兄ちゃんを見た時、一瞬、あの人が生き返ったんだと思ったんだ。
見た目がそれほど似てるわけじゃないし、歳が全然かけ離れているし、そもそも死んだ人が生き返るわけはないんだけれど、不思議と、そう思った。
そんなこと、もう一人のお兄ちゃんの時にはなかったんだよ。
もしかしたらお兄ちゃんが、一番あの人に似てるのかもしれない。
だって私、今だから言うけどさ、お兄ちゃんと話してると、胸がとくんとくん、いってたんだから。
私って、身内しか好きになれないのかな?
ヤバいね。
そんなお兄ちゃんに、最後のお願い。
絶対きいて。
きかなきゃ殺す。
てか、もう私は死んじゃってるんだと思うけど、だったら、呪い殺す。
かわいい妹の、最後のお願い。
お兄ちゃんが押し倒しちゃうくらい(笑)かわいい妹の。
あなたは、生きていてあげてください。
じゃあね、バイバイ!
雫
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