番外編3 絵馬ージェンシー
物語の舞台となった展翅町の神主の話。
*
明日はお焚き上げの日だ。
齢70を越えて今までより体に無理が効かなくなってきた。
今夜のうちに回収しておかないと明日が大変だ。
端から徐々に回収を進めていき、最後の3枚となった所で、微かに物音が聞こえた。
耳を澄ませて物音の方を見ると、銀色に輝く人型が、ぬらりと現れた。
亡霊か?!
一瞬焦ったが、足もあるし霊の類ではないようだ。
妖怪かと思ったが、似たような存在の記憶はない。
代々伝わる妖怪・霊を記載した文献に記されていない未知の物の怪。
敵意は無いようだが祓わねばならぬ。
近所で異界の存在を祓えるのは、儂以外にはおらぬからだ。
我が神社は300年以上の歴史を誇る。
その長き歴史の中で、神道が妖怪や霊と戦う存在であると勘違いした民衆の期待を受けて、代々の神主はあらゆる異界の存在と戦ってきたのだ。
儂だって妖怪や霊と戦う為に神道のみにあらず、修験の技や、陰陽の御業も取り入れた、退魔の『えきすぱぁと』なのだ。
意を決して、面妖なる銀色の人影の正面に立つ。
その直後ーー
「ほうかいせぇ~、ほうかいせぇ~」
銀色の存在が恨めしそうな顔で、儂に向かって必死に懇願した。
そして背後から無数の手が伸びてきた。
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
儂は恐怖のあまり叫びながら本殿に転がり込んだ。
神前ならっ、神前なら守ってくれるだろう。
何だあの
『崩壊せぇ~、崩壊せぇ~』
面妖な声を思い出して震え上がる。
世界の崩壊を願う恐ろしい呪詛ーー儂に太刀打ち出来る存在では無かったのだ。
これは緊急事態、絵馬だけに『絵馬ージェンシー』だ!
*
今日は元旦。
儂は呪いの絵馬の回収をする事が出来ないまま、次の正月を迎えてしまったのだ。
今年の絵馬を奉納する場所はどうすればよいのだ?
悩みながら放心状態でうろついていると、複数の若い女性の声が聞こえてきた。
「きゃーっ、本当に課長と高橋先輩が一緒に初詣に来てくれたぁ! たまりませんなぁ」
「ちょっと千春ちゃん。冷やかしは良くないわよ」
「千春ちゃんの実家って、本当に神社だったのね」
声の方に向かうと、孫娘の千春と楽し気に話す若い女性が二人がいた。
どうやら勤め先の知り合いが来ているようだな。
そのうちの一人の女性が儂に歩み寄ってきた。
「初めまして、千春さんの同僚の高橋莉子と申します」
「初めまして、祖父の
娘がスッと3枚の絵馬を差し出す。
それを見た途端、恐怖のあまり息が止まる。
あの呪詛の絵馬だ!!
「この絵馬を譲って頂けないでしょうか?」
なんと、世界を呪う崩壊の呪詛の絵馬を手にしただけでなく、それをもらい受けるというのか?!
これほどの御業を使えるのは、噂に聞き及ぶ『聖女』という存在しか考えられん!
だから人目も憚らず土下座して、情けない声で必死に懇願した。
「受け取って下せぇ、せぇじょさまぁ~」
そんな儂を見て3人が揃って、こう言ったのだ。
「「「OLなんですけどっ!」」」
完
OLなんですけどっ! 勇者と魔王を召喚したって責めるアイツは次元・警察・宇宙人 大場里桜 @o_riou
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