番外編2 剛腕より、なお強きもの
ご近所の鈴木さんが、鈴木さんでは無かった頃の話。
*
「
ぶっきらぼうに突き出された皿を受け取り、特製スパイスで味付けしたサラダチキンを乗せる。
おかわりするって予想していたから慌てなかったけど、今日は何人分食べるつもりなのだろう……
最近、徐々に食べる量が増えているような気がするんだよね。
「今日は何人前食べるの? もう4人前食べてるけど……」
「あと2人前くらいかな。今日も最高だよ! さっきのサラダチキン新しい味付けだったよね? いつも味を工夫してくれて嬉しいよ。
目の前の彼女ーー
彼女は僕ーー鈴木
1年前に不良に絡まれている僕を助けてくれたんだ。
それでね、お礼に料理を作ってあげたら、毎日食事しに来るようになったんだ。
僕の料理が気に入ったんだって。
それが僕にとって、唯一自慢出来る事なんだ。
いつも食後に武勇伝を聞かせてくれるんだ。
ブレーキが利かなくなって暴走するトラックを素手で止めたり、地震で倒れそうになったビルを立て直したりしたんだって。
僕を助けてくれた時も、絡んできた男性をお手玉の様に軽々と投げてたんだよ!
人間を超越した怪力!!
僕は彼女の強さに憧れてるんだけど、彼女は筋力しか自慢出来る事がないから、ヒーローをやってるって謙遜するんだ。
料理しか取り柄がない僕より凄いと思うんだけどね……
*
翌日の夕食時も
いつも美味しそうに食べてくれるのは嬉しい。
でも、食べ過ぎは良くないよね。
彼女の健康の為にハッキリ伝えなきゃ……
「そんなに沢山食べ続けたら太るよ。今はヒーロー活動で運動してるから平気かもしれないけど……」
「そういうのは太った後に考えるわ。下手な考え休むに似たりって言うんだろ?」
「真剣に考えてよ。太ったら嫌われるかもしれないよ」
「誰にだい?
「それは無いっ!」
即座に否定した僕を見て、
彼女を嫌うなんて考えられない。
だって、僕の憧れなんだから!
でも、僕が彼女が食べ過ぎない様に、シッカリ説得しないといけない。
「でも、ほらっ、け、結婚とか苦労しそうだよ」
僕は少し恥ずかしいけど結婚の話題を振ってみた。
彼女だって結婚の話題だったら真剣に考えてくれるよね?
「なに他人事みたいに言ってるんだい。そういうのは
「どうして僕が?」
「なんだい? 私じゃ嫌なのかい? 私は一生
彼女が腕を僕の首に絡ませ抱き寄せる。
そういう言い方……ずるいよな。
どうやら僕は彼女の強大な筋力より、なお『
*
20年後ーー
「珍しいね。そんな恰好して何処に行くの?」
「ご近所の莉子ちゃんが困ってるの。だから、久しぶりに軽く運動してくるわよ」
太って体型は崩れたけど、凛々しい横顔は現役時代のあの日のままだね。
太った事も20年間の幸せの結果だと思えば愛おしくも思えてくる。
「いってらっしゃい」
「夕食はステーキね!」
いってらっしゃいの返事が「夕食はステーキ」か……
でも
さて僕も腕を振るうとしますか。
彼女を20年以上飽きさせないくらい、料理の腕には自信があるんだーー
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