第109話
得も言われぬ緊張感が肌を突く。
闇が黄金の如く閃き、
その狭間で、対峙し合う者たちの瞳が光刃のように行き交う。
得物を構える
敵と化した
だが、『
術士候補の近衛童子たちは、伝説的な『
あの日――学舎にて、老いた女性導師は枯れた声で切々と語ってくれた。
我らの祖は、『
かくなる星は彼方に去り、もはや交わることは叶わぬ。
だが、我らが祖は『
我らが『算術
星道を二十八に分け、さらに半分に区切り、人が運命を読む。
生まれた月、生まれた日、生まれた時間から守護鳥を読み解き、運命を探る。
赤子の命名も、
(……
だが、上野の――
兄への憎悪を
けれど、『彼』は思い出してくれるだろう。
自分の推測は、恐らく的中しているだろうから。
ふわりと――脳裏に、少女の影が浮かんだ。
緑がしたたる平原で、牛を放牧している。
牛たちの間を、彼女は駆け回っている。
のどかな光景は、故郷の村に似ている――
愚かな夢だ、と
村のために帝都に行き、学び、友を裏切り、国が滅びた。
女性を愛する資格など、あろう筈が無い。
――前を見据えた瞬間、刃が見えた。
真っ先に反応したのは、チロだった。
「何だって!?」
見守っていた
「
落下した刀を取り、
左袖だけを残して切り裂かれた上衣を奪い取った
「みんなっ…!」
蒼白なフランチェスカも駆け寄って来た。
「頼む!」
駆け寄って来た
即死では無いが、ピクリとも動かない。
仲間に駆け寄りたい。
無事を確かめたい。
けれど、ここで動くことは許されない。
動けば、隙を作る。
生きている仲間たちを守らねばならない。
だが――
敵は、大太刀を構えて立っている。
とりとめのない虚無を浮かべた眼差しで、斜に太刀を構えたまま静止している。
動いた気配は、全く感じなかった。
(水葉月は、どうやって斬られたんだ!?)
目で
太刀筋を見切るどころか、何が起きたかすら分からない。
背後の声が、異様に大きく響く。
「傷が深い! 止血できるか!?」
「少し止まってきてるよ! 胸を押さえて!」
「首元も押さえろ!」
(まずい…!)
注意を払っていたのに、最悪の事態となってしまった。
自分たちは、何度も『
それが、治癒効果の限界を示している。
癒しの術の使い手の蓬莱さんは消え、代わって現れた黄泉姫は黒馬の背だ。
彼女には、癒しの術は期待できないだろう。
それより――
「彼らには手を出すな」
目前の敵が、どの程度に生前の思考を保っているかは不明だ。
とにかく、負傷者の手当てをする無力な者を巻き込んで欲しくない。
「我が敵は、そなたら『八十九紀の四将』のみ。それ以外を斬る術は持たず」
耳を澄ますと――介抱する者たちの切羽詰まった声に、唸るような途切れ途切れの笑いが混じる。
こちらの窮地を、生首が嘲笑っているのだろう。
誰かが倒れたら、必死に命を救おうとしてくれる仲間がいる。
出会って間もない、ろくに言葉も交わしていない偽りたちでさえ、
幸い、
最悪、自分たちが倒されても彼らは生存できるだろう。
後は、黄泉姫の沙汰を信じるだけだ。
尊大な姫君ではあるが、不条理な殺戮を良しとしないことは分かる。
「……そうか……そういうことか」
小馬鹿にしたような声が飛ぶ。
彼は立ち、マントを脱ぎ、血染めの両手を白シャツで拭う。
「おい、僧正さんよ。狙ってみろよ」
襟元のスカーフを解き、下に落とし、前ボタンをひとつ外して首元を露出させる。
「俺の首を落とせよ。だが……無理だよな」
『
『
制止したいが――彼は敵を倒す方法を見抜いたに違いない。
彼の捨て身の行動を止めては――勝てない。
勝つために、心を鬼にする。
それだけが、剣士に出来る唯一の策だ。
仲間が死ぬかも知れない。
それでも、敵を倒さねば進めない。
(……上野!)
和樹と一戸は、友を想う。
すでに、月城は瀕死だ。
二人目の犠牲を出すかも知れない――
「仕方ねえな。教えてやるよ。こいつらも知らない俺の本名をな」
『
生首が「ぐおっ」と呻き、次の瞬間に『
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