序の章 黄泉月の記億/近衛府の四将 (残酷描写あり)
第9話
白い小花は強風に晒され、宙を舞い踊る。
見上げた空は澄みきった碧だ。
天上から穏やかな光が差し、さえずる鳥たちが群れを作って飛び去って行く。
『
賢明なる
王都を守る
けれど、敵の進軍は早く、都の王宮『
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ……」
狂気じみた笑いが響き渡る。
四方を回廊に囲まれた『
それを囲むように白い布屏風が張り巡らされ、外側には武装した衛士たちが、隙間なく立っている。
衛士たちは『
これから、
「月の帝国に
布屏風超しに揺れる男の影と哄笑に、若い衛士のひとりが立ったまま嘔吐した。
別の衛士は瞬きも忘れ、左右に体が揺れるほどに震えている。
この男を放置すれば、いずれは月の帝国にも、災禍は及ぶことは見えている。
だが、もはや止める術は無い。
それに乗じた
しかし布屏風の内にて、地に置かれた半畳に座らされた囚人たちは、微塵たりとも高潔な心を失ってはいなかった。
それを握り、ただ静かに祈る。
その左に座す
長い
御神木を眺め、数珠の珠の数を数え、『大いなる慈悲深き御方』に魂を
その隣に座す
御親と同じ数珠を握り締めていらっしゃるが、
艶やかで豊かな黒髪は半畳の下に零れ落ち、それを飾るのはどこからか舞い落ちてきた白き花びらたちだ。
御母君の御手で
民の命を
最期の時を心静かに待つ王族の方々に向き合う形で、やはり処刑を待つ若者たちがいた。
彼らは
腰に届くほどの長さの髪は、ひとつに束ね、背に垂らしていた。
二十歳を越えていない若者たちは、
中央に座すのは四将の長を務める『北門の大将』の
彼らは数珠を持つことも許されず、重罪人として処刑される。
しかし、彼らの瞳の
取り乱すこと微塵も無く、誇りを見失うこと無く、背を真っすぐに伸ばし、両膝に拳を当て、穏やかに自らの運命を見つめている。
六人の囚人たちの真後ろには、抜き身の太刀を携えた衛士たちが立つが、その中の誰一人として、この処刑を望んではいない。
囚人たちの気高き様を見るにつれ、己の恥が募るばかりだ。
だが、衛士たちの不穏なる気配に苛立った
「クソガキ、出て来い!」
すると、背後の布屏風の陰から少年が現れた。
生成りの貫頭衣を着て、
髪は後ろでひとつに結び、その手には鉄製のハサミが握られていた。
少年は肩を縮め、恐怖に耐えながら進み出る。
「ガキ! この
しかし、少年は動けない。
恐怖のせいだけでなく、髪を断たれるのは屈辱的な刑罰だと知っているからだ。
高僧の手で断たれる『
だが、その場を動けぬ少年に、
少年を蹴り上げようと足を踏み出した時である。
「……おい、ぼうず」
「カッコよく切ってくれよ……出来るな?」
「……はい」
人懐こい笑顔に誘われ、少年は泣き笑いして進み出た。
少年は手を震わせながらも、
少年は顔をクシャクシャにして頷き、
そして
「名前は…?」
「イザネ…です」
「いつか君が……僕の父上に逢えたなら、伝えて欲しい。『
「はい……はい……」
イザネは何度も頷き、
衛士たちが三人の断たれた髪を拾い集め、
風に揺れる
「イザネ……こちらへ」
イザネは目を擦りながら、膝立ちで
「顔をお上げなさい……イザネ」
「大儀であった。これを受け取っておくれ。何かの役に立つであろう」
「……
イザネは号泣し、衛士たちの啜り泣きが聞こえ始めた。
「早く、お帰り。そして達者で暮らしなさい」
イザネは何度も頷き、処刑場から姿を消した。
しかし、嗚咽は止まず。膨れ上がるばかりである。
「さあてえぇ! このゲスな
衛士たちは固唾を呑む。
忌むべき惨禍が近付いている、そんな予兆をひしひし感じる。
しかし、
真紅の玉を束ねた首飾りを鳴らし、金糸の紋様が浮かぶ紫の
「我が衛士ども、よく聞け!
「すべては、この性悪女が仕組んだことだ! 月帝閣下の実の妹でありながら、夫の
「さらに! 『
振り向き、蒼白な顔色で地面に座り込んでいる
『
「……はなしが……ちがう……」
「はぁ? 何か言ったか?
「……………」
「何を怯えている。呪われるとでも思っているのか? こやつらの死骸は『黄泉の泉』に投げ込んでくれる。あそこに投げ入れられると、魂すらも浮かび上がらん。
地獄で、虫けらとなって転生を繰り返すのだ。潰されては死ぬ、を永遠に繰り返すんだよ!」
「………………」
しかし、
叱責された仔犬のように長身を縮め、全身を
「安心しろ。お前には、しかるべき地位を与える。
「なんと、哀れで
「このぉ……出しゃばりクソ女が!」
腰に吊るしていた小刀を抜き、
「おい、
「まっ、お下品♪」
背後から浴びせられた
真後ろに座していた
「なんだあ!?
だが、
「御無礼をお詫び申し上げます、兄上。しかし、どうやら色本の読み過ぎとお見受けいたします。昼夜を問わずの乳しぼりで、
衛士たちの血の気が、音を立てて引いた。
しかし
「こっ……この……そいつをよこせぇ!」
「仲間どもの生首を見る前に殺してやる! せめてもの情けだ!」
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