雨の日(声劇版)

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雨の日

ボイスドラマ『雨の日』

〇原作:遠野天安

 


〇登場人物

A:女子高校生。ちょっとダウナーなイメージ。

ひなた:幼稚園児ほどの女の子。明るく、天真爛漫に。

運転手a:最初の一言。Aを置き去りにしていく。

運転手b:最後の方。Aに呼びかける運転手。


〇表記

役名→セリフ

AN→ナレーション

SE→効果音


(SE:雨の音)


運転手a「ご利用ありがとうございます。こちらは第一高校経由駅前行です。発車いたします。」


(SE:バスの扉が閉まる音)

(SE:バスが発車する音)

(SE:雨の中を人が走る音)


A「はっ……はぁ……。……最悪。少し待っててくれてもいいのに……。」


AN

突然降りだした雨。

傘を持ってきていなかった私は、ずぶぬれになりながらバス停へと走った。

けれど、雨の中を行くか少し迷っていたせいで、バスは目の前で行ってしまった。

バス停の待合室に入ると、全身の力が抜ける。


A「えーっと、次のバスは……30分後か。スマホ充電は切れてるし。もう、ほんとついてない。なんかないかな……。あっ、音楽プレイヤー。鞄の中にあったんだ。あんなに探したのに……。充電はまだある。ないよりましかな。えーっと……。」


AN

白いイヤホンを両耳につけて、再生していく。

少し前に流行った曲。周りの人に話を合わせるために作ったプレイリスト。

これは、ただの暇つぶし。

そっと、目を瞑(つむ)って聞く。


ひなた「ねぇお姉ちゃん、なにきいてるの?」


AN

かけられた声に目を開くと、そこには黄色いレインコートを着た、一人の女の子がいた。


A「えっと……君、どこから来たの?ひょっとして、迷子?お名前は?」


ひなた「ひなた!ねぇお姉ちゃん、なにきいてるの?」


A「えっと……私の好きな……いや、そんなに好きでもないかな……そんな感じの曲。」


ひなた「えー?お姉ちゃん、変なの。好きじゃないおうた聞いてるんだ。」


A「うっ……。」


AN

その女の子は、私の横にちょこんと腰掛ける。


ひなた「ねぇ、お姉ちゃんはおうた好き?」


A「え、うん。好き……だよ。」


ひなた「ほんと?私もね、おうた大好きなの!」


ひなた「♪あめが あがったよ おひさまが でてきたよ あおいそらの むこうには にじが かかったよ」


AN

お気に入りなのだろう。その女の子は、どこか懐かしいそのフレーズを繰り返す。


A「……まだ雨あがってないけどね。」


ひなた「じゃぁ、お姉ちゃんも一緒にうたお!そしたらきっとおひさまもでてくるよ!」


ひなた「♪あめが あがったよ おひさまが でてきたよ あおいそらの むこうには にじが かかったよ」


A「あ……。そっか。思い出した。私も知ってるよ、この歌。」


ひなた「ほんと!お姉ちゃんもうたえる?」


A「……うん。歌える。一緒に歌おうか。」


A・ひなた「♪あめが あがったよ おひさまが でてきたよ あおいそらの むこうには にじが かかったよ」


AN

子供の頃に見ていたテレビで、歌のお兄さんとお姉さんが歌ってた曲。

私も、よく歌ってたっけ。

あの頃は歌詞の意味も知らないままの、そんなフレーズだったけれど。

そのフレーズは、私を。

あの頃に連れて行ってくれた。


A「♪あめが……あ。」


AN

サァっと、目の前が明るくなる。

いつのまにかやんでいた雨。

雨雲の切れ間から、日の光が差し込んできた。


A「ひなたちゃん見て、本当に晴れて……あれ?ひなたちゃん?」


AN

ふと気が付くと、そこには私一人しかいなかった。

一緒に歌っていたはずの女の子は、どこかへ行ってしまった。


(SE:バスが停車する音)

(SE:バスの扉、開く音)


運転手b「ご利用ありがとうございます。こちらは第一高校経由駅前行です。……お客さん、乗られますか?」


A「あっ、はい、乗ります。」


(SE:バスの扉、閉まる音)

(SE:車が動き出す音)


A「(小声で口ずさむように)♪雨が上がったよ、お日様が出て来たよ……」


AN

私一人だけのバス。

その窓から見える雨上がりの景色は、いつもより青く、優しく見えた。


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