第4話 集会
『その鬼籍……如何か』
鬼籍が戻ったというのに、鬼籍を何度となく開いていた閻王は、納得を示している様子はなかった。
納得していなかったのは、蓮も羽矢さんも同じだった……。
「中央に坐す本尊を一時的に『別尊』に変更して下さい、瑜伽。閻王に」
住職は、神祇伯の言葉をもう待たずに、そう言葉を置くと、この場を後にしていった。
神祇伯は、何を思っているのか、目を伏せている。
弱くも火を放つ魂が、パチパチと小さくも火花を散らしていた。
火の勢いがない事に、大きな不安も抱える事はなかったが、その火花が散る度に、火の玉が増えていく。
住職がこの場を後にしてから、少しの沈黙があったが、神祇伯が静かな声で話を始めた。
「……祟りなど……思い当たる節があるが故に……祟りだと言うのだろう。怨まれている事の因は、誰しもが気づいている事だ。それを今更、謝罪など受けても、器のない魂は行き場などない。器を奪われた魂は、奪った相手から器を奪う……」
神祇伯が言葉を止めたと同時に、鐘の音が聞こえた。
神社に鐘はない。その音で、住職が冥府の門を開けたのだと思った。
余韻を残すように響いた鐘の音を、染み入るように聞く神祇伯は、伏せていた目を本殿へと向けると言葉を続けた。
「受け入れられない謝罪は、意味を持つ事もなく、また怨みへと変わる……その繰り返しだ。怨念が大きく膨らみ、祟りだと手に負えなくなれば、神と祀り上げ、国家鎮護の神であれと平伏する。それでも災いが治らなければ、更に神号を与え、調伏し、数々の神号を持った人神は、分身でも出来たかのように荒魂と和魂を使い分ける」
そう話すと神祇伯は、深く息をつき、ゆっくりと立ち上がった。
「神は神を殺す、神殺しが出来る……か。ふふ……まるで、神だけが特別な力を持って成せる業のようにも聞こえるが……」
言いながら神祇伯は、火の玉をなぞるように、指を動かした。
弱々しくも火花を散らし、増えていった火の玉がぶつかり合うと、火の玉が火の玉を飲み込んでいき、火の勢いを強めていった。
その様は、奪い合っているように見えた。
その様を見つめながら、神祇伯は言葉を続けた。
「人は……神にも勝る程、簡単に人を殺す」
深く……突き刺さる……言葉だった。
思わず息を飲んだ事が、理解を示している。
「それは……生きながらにしても同じ事だ。悪を悪だと気づく事もない、気づかない事が罪を作ると知る事もない。それ自体が自我への執着だ。その行いが善かどうかはさておき、自身にとって都合のいいものであると保身する……その執着は当然、自身の基準でしかないのだからな」
そう言葉を続けた神祇伯は、ふっと苦笑を漏らした。
「なんだか……ジジイの説法を聞いているみたいだな。それならそうだな、説法ついでに……」
羽矢さんが神祇伯の隣へと動いた。
羽矢さんの行動に、蓮はふっと笑みを漏らす。
「羽矢の奴……」
そう言いながら蓮は、ニヤリと顔を歪めた。
「蓮……?」
僕は、羽矢さんの行動を見通したように笑みを見せる蓮を窺っていたが、バサリと衣が翻る音に目線が動いた。
羽矢さんの着ている衣が、黒衣に変わる。
「秘密
そう言いながら羽矢さんは、クスリと笑みを漏らし、自分の目元を指先でそっとなぞると、こう続けた。
「その目で……ね……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます