第4話 相対
「お前に従う寺院は何処だ?」
寺院まで……相対する事になるなんて……。
高宮を捕らえた蓮。
僕は、蓮が言ったその言葉に驚いていた。
だけど、怒りが込められたその言葉は、閻王が言っていた言葉を納得させた。
冥府へと導く務めが果たされていないという事なのだから。
羽矢さんは、がっかりとした様子で、溜息をついていた。
それも当然だ。同じ道を進んでいても、大きな違いが表れているのだから。
その信念の違いに、肩を落とすのも無理はない。
僕だって同じ思いだ。
仏の道を進んでいても、仏の教えに反していると言っていいだろう。
「……羽矢さん……」
「そう辿り着く事は……正直、分かっていた事だが、やはりそれが事実なら残念だな……」
「……そうですね……驚いています」
「本当に残念だ」
羽矢さんは、そう呟くと、また深い溜息を漏らした。
仏の道にしても、神の道にしても互いを尊重しない訳ではないが、神の道の信仰対象は様々であっても、仏の道の教えは一つの方向へと向いている。それは揺るぎない真理だ。
これは裏切りだと言える事だ。それは僕たちに限らず、遺族に対しても、だ。
「死者の魂をどう導こうが、目に見えないものが何処に行くかなど、分かりはしないでしょう?」
「そういう問題じゃねえだろ……ここでは明らかに分かる事だ」
「でしたら……早く追い掛けた方がいいですよ、紫条 蓮さん?」
「何……?」
「鬼に変わらないうちに……ね?」
……鬼……。
どれ程の存在が姿を隠しているのだろう。
そして姿を現す時には、歯止めが効かない程の脅威を与えると、宣戦布告にも聞こえる言葉だった。
高宮の強気な態度は変わらず、余裕だとでも言いたいのか、笑みさえ見せて口を開く。
「『地獄に仏』……先手を打ったようですが、責め苦を受ける前の魂が救済を求めるとは思えません。苦があるからこそ救いを求める訳ですからね。無念を抱えた魂が、本当に向かいたい場所は当然、下界でしょう? 怨みが晴らせるなら、報われるではないですか。例えそれで消滅しても、それこそが浄界へと向かったと言ってもいいくらいではないですか」
「お前の意見など聞くつもりはない」
高宮を掴む蓮の手が強くなると、苦しさからか、高宮は顔を歪めた。
「答えろ……高宮」
蓮は、高宮に言葉を迫る。
「お前に従う寺院は何処だ……そこにあるんだろ……」
蓮は、高宮を追い詰めるように、強い目線を向け続けていた。
地を背にする高宮の周りに、光を放ちながら円が浮かび始める。
……蓮……。
浮かび上がった円は、蓮の怒りに同調するかのように、強い光を放ち始めた。
確かに高宮を許せる訳もないが、こんなにも蓮が怒りを露わにするなんて……。
僕を支えていた羽矢さんは、蓮の様子を見ながら、僕の両肩をポンと軽く叩いた。
「……羽矢さん……蓮は……」
羽矢さんは、頷きを見せると、蓮の言葉を聞けというように目線を送った。
「答えろ、高宮……」
蓮が続けた言葉に、僕は涙が溢れた。
「阿弥陀如来の像は、そこにあるんだろっ……!」
ずっと……気にしていてくれた。
『その神社に置かれていた仏の像がなんだったか……蓮……覚えていますか』
『ああ、覚えている。阿弥陀如来だ』
羽矢さんは、ふうっと息をつくと、こう言った。
「正体が一つなら、化身も一つとは限らない……阿弥陀如来の化身は、一つじゃないからな……」
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