第5話 境界
羽矢さんは、高宮を押さえ込み続ける蓮の元へと歩を進めた。
僕は、羽矢さんの少し後ろをついて行く。
蓮に押さえ込まれたままの高宮だが、蓮の問いに答える事なく、笑みさえ浮かべながら蓮をじっと見ていた。
「蓮」
羽矢さんが蓮に声を掛けるが、蓮は手を緩める事なく、高宮を睨み続ける。
「答えろよ……高宮っ……!」
蓮が声を荒げたと同時に、ブワッと風が地から噴き上がった。
地に刻まれるようにも描かれた円が、光を放ってバチバチと弾けさせた。
その衝撃は高宮に伝わり、高宮は顔を歪めると、打撃の大きさに短い呼吸を繰り返していた。
「蓮!」
羽矢さんは、蓮を落ち着かせようと蓮に近づくが、蓮の怒りは
「蓮……! 羽矢さんっ……!」
それでも羽矢さんは、蓮の肩を掴んだ手を離す事はなかった。
「依……大丈夫だ……蓮、それ以上はやめておけ。聞きたい事も聞けなくなるぞ。それに……俺はお前に罪を作らせたくはない」
「……分かっている。その境界を越えるつもりはない」
……蓮……羽矢さん……。
蓮の手の力が少し緩んだ。
それでも高宮から手を離す事はなかったが、羽矢さんに衝撃を与えてしまった事を悔いているようだった。
蓮の手が震えている。
蓮は、高宮に視線を向けたまま、ゆっくりと言葉を吐き出した。
「……何を企んでいるかって分かっていても……事が大きく広がらなければ罪だと問えない……事が起きてからじゃ……遅いのにな。それも……目に見えないものを動かして……それを力に襲撃を掛けてくる。誰が気づくんだ……? 目に見えないものなんだぞ……呪いだ、祟りだと、それを祓う為に鎮魂すれば済む事なのか……? 閻王だって……逃げた魂を捕まえて差し出せば、裁く事も出来るだろう。だが……こいつは閻王だって裁く事は出来ない……例え死んでも、だ。こいつは道が違うんだからな……死んだら死んだで神の道だろ……」
蓮の言葉に羽矢さんが答える。
「神の道だって、邪神や鬼神を作る為にある訳じゃない」
羽矢さんのはっきりとした声に、蓮は羽矢さんを振り向いた。
「だから俺は、お前に神の道を行けと言ったんだ。蓮……お前なら出来るんじゃないのか」
「羽矢……」
「その境界を作ればいいだろ、蓮」
羽矢さんの思いを受け止める蓮は、頷きを見せると高宮から手を離した。
その瞬間に、高宮の手が蓮へと向いた。
「蓮……!」
蓮の名を叫んだ僕の声の後には、僕の名を呼ぶ蓮と羽矢さんの声が響いた。
高宮が蓮に向けた手。蓮を押し退けて、その手を体で受け止める。
高宮の手は僕の体を突き抜けた。
仰向けになったままの高宮の体を染めるように、僕の血が落ちていく。
僕は、高宮の腕を掴んだ。
「……残念ですが……あなたには掴めません」
そう言いながら僕は、高宮の手を引き抜いた。
「何処にあるんですか……だってあなたはここにはいないでしょう……?」
手を引く抜くと、高宮の姿が薄れていく。
「あなたの正体は、何処にあるんですか」
引き抜いて掴んだ僕の手には、感触はもうなかった。
高宮の姿は消えてしまったが、言葉を置いていく声だけが残った。
「闇など存在しない……そこに光がないだけ……では、光など差す事もない場所ならば、その闇は元々そこに存在しているものだと証明出来る事でしょう」
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