森の洋館の主人は初対面?

御厨カイト

森の洋館の主人は初対面?


「はぁ、はぁ、はぁ・・・、くっそ、しおりいったいどこ行ったんだよ!」


俺は森の中を走りながら、そう吐き捨てる。


まさか二人でキャンプをするっていう楽しくなるはずだった思い出がこんなになるなんて。

一体に何処に行ってしまったんだ栞は・・・


くっそ、あの時1人で食材を取りに行かせなかったら・・・

だが、こんな過ぎたことを考えても仕方がない。


俺は森の中をくまなく探す。


すると俺は森の奥の方まで入り込んでしまったようだ。

なんだか雰囲気が違う。


流石にここまで栞も来ていないだろうと思って、引き返そうとする。

日も落ちてきたことだしな。


だが、そう引き返そうとした俺の視界の端に何かが映る。

・・・建物か?

こんな森の奥に珍しい。

少し覗いて見るか。



そうして、俺はその建物の前に行く。

建物は結構大きく、よくドラマとかで出てくる洋館とイメージがぴったりだった。

見た目は中々に寂れていて、人がいるような気配もあまり感じない。


俺は少しドキドキしながら、その洋館に入る。

中は見た目通り広く、豪華な感じだ。

俺はそんなことを考えながら中へと進む。


すると、

「おや、こんな森の奥の寂びた洋館にお客さんとは全く珍しいこともあるもんだ。」


「!」


中央の階段の踊り場に1人の美しい女性がいた。


お、驚いた。

まさか、人がいたとは・・・


「こ、これは勝手に入ってしまってすいませんでした。出ていきます。」


「あぁ、ちょっとお待ちなさい。」


「えっ?」


「何か事情がおありなようだ。少し話を聞かせてくれないか?」


「あ、は、はい・・・」


そうして俺は目の前に降りてきた女性に経緯を話す。


「ふむ、なるほど。君の彼女がこの森でいなくなってしまったのか。」


「はい、そうなんです。それで探していたらこの洋館を見つけて、それで・・・」


「この洋館に入ってしまったという事か。」


「はい・・・。あの、ホントすいません。今すぐ出ていきますから。」


「出ていくって言ったってもう外は真っ暗だ。流石に危ないぞ?」


「そうですけど・・・」


「まぁ、事情は分かった。私も協力しよう。」


「ホントですか!」


「あぁ。だが、今日はもう探すのは諦めた方が良い。夜の森というのは危険がいっぱいだ。」


「でも・・・」


「彼女のことが心配なのも分かるが、流石にだ。それに多分彼女も無事だろう。さぁ、今日はうちで休んで行ってくれ。」


「いいんですか?」


「もちろんだとも。私も何年かぶりに人と話す機会が出来て嬉しんだ。もう何年も誰とも会っていなかったからな。」


「・・・それはどうしてですか?」


「うん?それはね、ある人を待っているんだ。昔にした約束を果たすためにね。まぁ、そういうわけで私は楽しみなのだよ。早速食堂に案内しよう。」


「あっ、そう言えばあなたのお名前を聞いていませんでした。」


「あぁ、私はディトナだ。」


「なるほど、ディトナさん。僕はれんといいます。よろしくお願いします。」


「ふむ、蓮、か。・・・ふふふ、やはり良い名だ。」


「?」


「いや、何でもない。それじゃあ、食堂へと案内しよう。」






*********




あの後はディトナさんと一緒に食事をして、寝室へと案内していただいた。

あまりにもフカフカなベットだったのと疲れが溜まっていたというのもあってすぐに眠ってしまった。


朝、起きた僕は早速栞を探しに、森の中を走り回る。

スマホは元々圏外だから繋がらない。

だから足で探すしかない。


それにしても、ディトナさん綺麗だな~。

別に邪な思いがあるわけじゃない。単純にそう思ったのだ。

彼女のいる立場で何言ってんだっと言われるかもしれないが生憎ここは俺1人。


それにしてもあんな綺麗な人が何年も待っている人というのはどういう人なんだろう。

普通に気になる。

帰ったらちょっと聞いてみよう。


そんなことを考えながら、俺は森の中で栞を探すのであった。




*********




「・・・えっ?私が待っている人について知りたいって?」


結局1日中森の中を探し回って、何も見つからずトボトボ帰ってきた僕を優しく出迎えてくれたディトナさんに俺はそう質問する。


「はい、少し気になりまして。」


「ふむ、別に話してやってもいいのだが・・・。実は10年ほど前にな、ある男の子と約束したんだ。結婚をするという約束をな。まぁ、その子はその約束をした後、どこか遠くに行ってしまったが・・・。そんなわけで私はその子を待っているわけだ。」


ディトナさんは顔を少し染めながら、そう話す。


一途なんだな。


「その子とは再会できたんですか?」


「・・・まぁ、出来たは出来たのだが。結婚はまだ先になりそうだ。」


ディトナさんは様々な感情が入り混じった顔でそう言う。

・・・中々複雑そうだ。


「まぁ、この話はもういいじゃないか。さぁ、夕飯はもう出来ている。一緒に食べようじゃないか。」


そう言ってディトナさんは食堂へと向かう。

僕はこの話題を持ち出したことを少し後悔しながらディトナさんの後を追う。





*********




「ふわぁー、ううん、トイレトイレ。」


深夜


尿意を催した俺は眠気と共にトイレへと向かう。


トイレに位置は初日にディトナさんに教えてもらっていた。

確か、1階の奥の廊下の先に2つの扉があって、その右側の扉だった気が。

左の扉には絶対に入らないでくれと言われたから気を付けなければ。


それにしても眠い。

まだまだ、疲れが残っているようだ。

早くトイレに行って、さっさと寝よう。

若干フラフラとした足取りと大して回ってない頭でトイレへ向かう。



ガチャ



僕はトイレの扉を開ける。


「!」


そしてその先にあったものに驚愕する。


その先にあったのは、いやいたのは手足を縛られ、椅子に固定された栞の姿だった。

意識を失っているようでぐったりとしている。


俺は「なぜここに栞がいるのか」、「そしてなぜ縛られているのか」という事が頭を途轍もない速さで過ぎるがそんな考えに答えを出す前に体が動いた。


「栞!栞!大丈夫か!おい、栞!」


返答がない。

まさかと思い、息や脈を確かめるが大丈夫だ、生きている。

うん?なんか首に変な跡がある・・・

まるで何かに噛まれたかのような・・・


まぁ、いい。

一先ず、早く栞の拘束を解こう。



「・・・どうして君がここにいるのだろうか?トイレはここじゃないぞ。トイレは右側の扉だと言ったはずだが。」


「!?」


後ろを振り返ると、ドアにもたれかかっているディトナさんがいた。


「それに・・・あぁ、それを見てしまったのか。君には見られたくなかったのだが・・・」


「・・・ディトナさん、どうして栞がここに?そしてどうして縛られているんですか!」


俺はそう疑問を投げかける。


「ふぅ、まぁ、君ももう察しているかと思うが、彼女をこうしたのは私だ。」


「どうして・・・?どうしてディトナさんがこんなことを?俺にはまったく分かりません。」


「・・・分からないか。こうなった理由は君にあるというのに。」


「えっ?」


「やっと私に会いに来てくれたと思ったのに、こんな邪魔者を拵えおって。お前には私という存在がおるというのに。」


「い、一体何を言っているんだ。」


「まだ思い出せないか。私とあんな約束もしたというのに、悲しいなぁ・・・。」


約束?

何のことだ?


「ピンと来てないか。それじゃあ思い出せてやろう。こいつの首元を見たか?」


「あ、あぁ、何かに噛まれたかのような変な跡が・・・」


「ふむ、じゃあ、次は私の口を見ろ。」


口?

・・・妙に尖がった歯がある、まるで牙みたいな。

まさか・・・


「これで分かったかな?私は吸血鬼だ。その変な跡というのも私が吸血をした跡。まぁ、こいつの血は不味くて飲めたもんじゃなかったが。さぁ、これで思い出したんじゃないか?」



・・・吸血鬼、約束、10年前。

微かにだが覚えている。

夏休みに出会ったあの吸血鬼のお姉さんのことを。


「その顔は思い出したようだね。そう、私は君が小さいころ、結婚の約束をしたお姉さんだよ。あれは丁度夏休みというものの時期だった気がするな。それにしても、顔とかは変わっていないからすぐに気づいてくれると思っていたのだが・・・」


ディトナさんは僕の顔を見て、嬉しそうに、でも少し悲しそうにそう言う。


「蓮がここに戻ってきてくれるまでに10年か・・・。長かったな。それに会いに来てくれたと思ったら、こんな邪魔者も連れてさ。でもまぁ、それでも許してあげるよ、君は私と結婚してくれるのだからね。」


「え、結婚?」


「あぁ、そうさ。10年前の約束をこれから果たすのさ。実はもう結婚式の準備はしているんだ。私と蓮の2人だけの式だけど、色々料理とか準備しているんだ。」


目の前の彼女はこれからの事が待ちきれないような顔でまくしたてる。


「さぁ、それじゃあ行こうか。こんな君なんかに尻尾を振る雌犬なんてほっといてさ。式じゃ誓いのキスならぬ誓いの吸血もしてさ。・・・忘れられない式にしようね、蓮?」



そう言って妖艶に、綺麗に、そして幸せそうに微笑む。



僕はその顔と言葉を聞いてただ固まることしかできなかった。









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