終話 後日談
「ちょっとやり過ぎじゃないの?」
女戦士は、勇者パーティーが向かおうとしていた逆の方へと、街道を歩いていた。その後ろに一歩引いて、あの小太りの男も付いてきている。
「あれぐらいでやられるようでは、魔王討伐など無理でしよう」
「一歩手前までいった人の意見? それはあたしではなく、当人達に聞かせないと」
「自分達で悟らなければ、強くなれません。それよりもお嬢様を連れ戻せ、とのご命令が……」
「やってみる?」
と、彼女は振りかえり、槍を構えた。が、その前に男の剣が、槍先を上から押さえ込んでいる。
「不意打ちをするときは……」
「悟られないで、でしょ。何度も聞かされているから、分かっているわよ」
「――一撃はすでに抑えています。それではダメです」
「武術指南は容赦しないわね」
「その前に……お嬢様の護衛として、雇われている身ですから」
と、ふたりは剣と槍をしまった。
「で、貴方はあたしを連れ戻さないんだ。力ずくで出来るのに? てっきり、
あたしが街の事情を国王に告発に行こうとしているのに、止めないの?」
「旦那様の命令は大事ですが、わたくしめの使命はお嬢様の護衛ですから。あなた様のお望みのままに……」
そう小太りの男は恭しく頭を下げた。
そして顔を上げると、こんなことを言い出した。
「恐らく旦那様は、お嬢様の身分を隠して賞金首にでもするでしょう。そのためには護衛のひとりも必要かと」
「それも当人達に言ったら?」
女戦士には、自分と同じ髪型にしたヒーラーのことが頭に浮かんだ。
「いい経験値になるのでは?」
「戦士と勇者様は息絶えていたわよ」
「部下に、息だけは吹き返させました。あとは希な回復魔法を使える彼女が、なんとかしなければ……」
「人間違いしておいて、非道いとするわね」
「日が暮れます。それまでに回復できなければ、モンスターに襲われるのがオチ。それぐらいでやられるようでは、魔王討伐など無理でしょう」
「それを当人達に言いなさいよ」
呆れたように、女戦士は言った。
そして、思い出したように、今まで歩いてきた街道の方へ向くと、
「ゴメンねェー!。もうひとりのあたしィー!!」
そう大声を張り上げた。
当人達には、聞こえるわけではないだろうが――
〈了〉
城壁の街にて~ヒーラーPTSD異聞 大月クマ @smurakam1978
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