墓ない命
夜乃ゆうひ
墓ない命
いつもの公園。公園内には子どもたちの遊ぶ声が響いている。虫かごを持った子供たちが、夏の盛りを知らせている。ベンチで本を読んでいるのは大学生だろうか。半袖のTシャツから細い腕が覗いている。時刻はもうじき真っ赤な太陽がオレンジ色へと姿を変える頃だろう。
「なあアキラ、今日マサルが亡くなったらしい」
突然の訃報は、ヨシヒロが持ってきた。ある程度予測はしていた。昨日のマサルの声に元気が無かったから、今日か、遅くても明日には天国へ旅立つことは分かっていた。
「そうか、逝っちまったか」
アキラとヨシヒロとマサルは小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた。アキラは短気、ヨシヒロはせっかち、マサルはおとなしい性格をしていた。彼らはよく喧嘩をしていたが、その分お互いの事なら何でも知っていた。
――墓くらい作ってやりてえな、とヨシヒロはため息交じりに独り言のように言った。
「墓なんか作ってる間に俺らも死んじまうよ」
アキラは少し語気を強めて答え、
「墓なんか作る前に子供を残さないといけないだろ。ヨシヒロは嫁さんを見つけて子供も残してから、そして死んだんだ。幸せなことじゃないか。なのに俺たちはまだ子供を残すどころか嫁さんすらも見つけられていない」
この状況のようがよっぽど不幸だよ――アキラはそう言い足した。アキラには分かっていたのだ。自分たちに残された時間が少ないことを。
「……そうだよな」ヨシヒロは悲しげに呟いた。
「俺たちは俺たちでするべきことをしようぜ」それから
彼らは大きな声で力いっぱいなき出した。
日が沈もうとしている。オレンジ色に照らされた公園から人はいなくなった。みんなはもう帰ってしまったのだろう。ただセミ達だけが短い命を無駄にしないように一生懸命、力の限り鳴いている。
墓ない命 夜乃ゆうひ @winetochocolate
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