最終話 田舎には人が来るわけがないと思ったのに
あっという間に時が過ぎた。
イトは、4つ子を生んだ。男2人、女2人だ。
俺たちだけででなく、周囲の連中も凄く喜んだ。
とくに次郎爺さんからすると孫になるわけで、喜びもひとしおだ。
そして、かおりも妊娠した。
ただし、俺の子ではなく、再婚した元旦那の子だ。
かおりの条件は2つ。
名字を清水に変えること、そしてこの村に住むことだ。
元旦那は了承し、この村にUターンしてきた。
そしてすぐにかおりは妊娠した。俺の子ではない。 大事なことだからまた言った・。
かおりの子は4人だが、イトはそれからも毎年子を産み、うちは8人になった。
村は勾玉販売で発展し、また勾玉にあやかって子供が欲しい夫婦の移住がひきもきらず、人口は大幅に増加した。
国からのIT補助金でネット環境を大幅に整備したこともあって、リモートワークで住みついた人たちも結構いる。
あと、村の発展の原因の一つに、占い師の妻とユーチューバーの夫のカップルの貢献も見逃せない。
勾玉の噂を聞いた全国ネットのテレビ局が、勾玉を求めてきたが、ハニワ・コーポレーションでは断った。
そこでテレビ局は、子供が生まれてすぐの夫婦から、勾玉を借り、レポーターに持たせて高名な女性占い師のところに行き、これの効果について占ってもらおうとした。
すると、占い師はその勾玉を見て、いきなりそのレポーターにプロポーズした。
曰く、「この勾玉を正規のルートで手に入れて、村で生活すれば一年以内に妊娠する。私は子供が欲しい。お金は私が何とかするから結婚してほしい。」
レポーターはその場のノリで承諾してしまった。それが全国中継されたのだ。占い師は2か月後に妊娠し、レポーターはこの村でユーチューバーになってそのニュースを配信した。
あとは言うまでもないだろう。すごい評判になっている。
また、ふるさと納税で勾玉が対象になり、ふるさと納税も毎年数億円を上げている。来年は10億円を越えそうだという。作るのは俺なんだが。さすがに一万個以上を作るのはそう簡単ではないんだよ。やるけど。
移住者を含め、子供が増えたので、幼保一体施設と小学校が設立された。
あっと言う間に予算が付き、建設が始まった。当然、発注先は俺たちの同級生の土建屋だ。
幼保一体施設のほうは、村の婆さんたちが張り切って世話をしている。
それだけではない。ハニワ・。コーポレーションの事務所の場所として、産業振興会館が建設された。 もう土建屋は大忙しで、嬉しい悲鳴をあげた。
ハニワ・コーポレーションは勾玉の販売で拡大した。また、農協と協力し、「金のハニワ」ブランドの高級野菜の通販も進め、会社の規模はますます大きくなった。
特に、うちの山で作ったトマトは、「超特選黄金のハニワトマト」と名付けて1個一万円の価格をつけてみた。このありえないトマトを、通販限定で販売したところ、これも即日完売してしまった。しかも、すこぶる評判がいい。
買えなかった人たちが、普通の「金のハニワトマト」を買い求め、とにかく農家も儲かってしかたなくなった。
当然、「金のハニワ」商標のライセンス料はうちの会社に入る。
結局、ハニワ・コーポレーションは自社ビルを建てることになった。
社長は俺だが、実質は副社長のかおりと、専務のかおりの夫が取り仕切っている。子会社の社長は、すべて清水一族が勤めているし、名誉会長として次郎爺さんがいる。
まあ、俺に経営の才能があるとは思えないし、社長の給料はもらっているから問題ないな。イトも副社長だ。
会社の経営はさておき、俺は黄泉の洞の深層の入口を見つけ、、30層まで攻略した。そこで、黄泉の洞を自由にできる能力を身に着け、常闇の洞窟の入口に、俺の家族か認めた者だけ使える転移の珠を設定し、向こうとの行き来も可能にした。
ついでに、黄泉の洞を拡張し、分岐を作って村の自宅の庭につなげ、そこにも転移の珠を設置した。これで、村、山、イトの村すべてに自由に行けるようになった。
俺は今や子だくさんだ。イトとの子が8人。イトの姉、妹との子がそれぞれ4人。子のない夫婦との間に授けた子が10人。不思議なことに、授けたところは全部双子だった。
総勢で…26人…だと?
まあ、種付けしたところは俺の子じゃないないとして、それでも16人いる。
名前だけでも一苦労だ。
毎年、夏になると、俺たち一家はイトの実家の村に行く。夏休みじゅう子供たちはそこで過ごさせる。現世界の子供たちは、全員バイリンガルで、イトの里の言葉を自由にあやつる。
俺とイト、あるいは巫女の血が混じったせいなのだろうか。16人全員、ハニワへの命令と妖術ができるようだ。いや、小さい子に能力があるのかはまだわからないが、多分間違いないだろう。
対ハニワ能力はまあいいが、妖術はちょっと間違えると事故につながるので、ここは厳しくしつけている。
毎年、訪問するたびに弟、妹が増えている。夏休みは、イトの姉妹との子作りのためでもあるのだ。 その割にイトも参加した4Pが毎晩繰り広げられる。どうなることやら。
あと1年で二人増えるのか、それとももっと増えるのか…。すでにラグビーチーム(含む監督)までできるようになってるんだが。だいたい、ラグビーもセブンスが増えてるんだぞ、身内で試合ができるじゃないか。まあどうでもいいか。
村の子たちは、こちらの世界には来させない。刺激が強すぎ、悪影響を恐れているからだ。
成人したら、こちらの世界を見せてやるつもりだ。それまでは、せいぜい山の実家に一泊で行くくらいにしておこう。まあ、あそこでもハニワと戯れることができるわけだしな。
ちなみに父は、こちらの山の家まで来た。
母と祖父の墓参りのためだ。転移の珠があれば、足が悪くてもやってこられる。
あの当時は、やはりこの家にいたわけで、懐かしいと言っていた。これも、一応親孝行だな。
俺は週の半分を羽庭の実家で、残りの半分を村の自宅で過ごす。まあ、どうせ黄泉の洞経由で一分もかからず移動できるわけなんだが。
村のほうが開けているし、職場はその近くなのだが、俺はむしろ山の生活のほうが気にいっている。イトと二人きりで山の家で寝ると、まだ子供が増えそうだ。
まあ、子供が増えると、年寄りが喜ぶ。
幼保一体園は、村の老人の憩いの場所にもなっている。子供がぎゃーぎゃー言っているのを聞くと、若返るんだそうだ。まあ、何となくわからんでもない。
月の綺麗な夜、俺とイトは山の家の縁側に座っていた。
山の中は静かで、虫の声くらいしか聞こえない。
「いい月夜だな。」俺が言う。
「本当にそうね。」イトは言う。
巫女の力も大きくなるようだ。
とは言っても、俺からすればこれ以上嫁さんに強くなってもらう必要もなかったりする。
その一方、俺にしてもこれ以上の霊力も、金も積み上げる必要はない。
ハニワを操る力は十分強い。勾玉を作れば作るほど、その力も強化されているようだしな。
ハニワ・コーポレーションは今のところ俺がいなければ立ち行かない。
それは、唯一俺だけがハニワ、いや勾玉を自由に手に入れることができるからだ。
だから俺は安泰だし、勾玉さえ用意すれば、あとは好き勝手できる。まあ、そうは言っても女遊びするわけでもない。
清水一族が俺の会社を食い物にしている、なんて噂もある。
俺はそんなこと気にしていない。
俺は自分で満足できる生活をしている。;会社をきりもりすることだってできないから、清水一族に任せている。まあ、嫁の実家だと思えばまったく腹は立たない。
むしろ、素人の俺の代わりにいろいろやってくれて感謝している。
どんどん仕事をして、どんどん儲けてほしい。会社が黒字ならその部分は全部ボーナスだって構わない。
おかげで、うちの子供たちも何不自由なく成長しているし、同い年の子供たちも村にたくさんいるから、小学校で同級生がたくさんできる。
などとつらつら考えながら月を眺める。
イトが、月に向かって呪文を唱え、何かを放つ。
空に赤く大きな花火が広がった。
「た~まや~」俺は言う。
「何、それ?」イトが聞く
「昔の花火屋の名前だよ。たまやとかぎや。その二つの名前が、今でも花火の合いの手の掛け声に使われているんだ。」
俺はイトに説明する。
「じゃあ、もう一回ね。」
イトが微笑んで言い、もう一度空に放つ。
今度は、青く大きな花火が広がった。
「か~ぎや~」俺は合いの手を入れる。
「ふふ。楽しいね。」イトが言う。
ああ、その通りだ。
楽しく、幸せだ。
きっと、死んだ祖父も母も、俺たちを見守ってくれているだろう。
そして、俺たちの子供たちのことも。
「じゃあ、最後にもう一回、大きいのやってみるね。」
イトが微笑む。
そして、空に向かって大きな呪術を放つ。
空に大きなハニワが広がった。
俺とイトは、大声で合いの手を入れる。
「は~にわ~~」
空に広がったハニワの花火が、ちょっと微笑んだ気がした。
ーーーFINーーー
これにて完結です。
皆さま、ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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【完結】 裏庭にハニワ、庭にハニワ、ハニワ取りがハニワになった件 ハニワの中から美少女が出てきたけどどうすれば? 愛田 猛 @takaida1
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