第20話 俺が社長になるわけがないと思ったのに

翌日、俺は防災無線で次郎さんに連絡を取った。


たまたま、次郎さんとかおりしかその近くにいない、ということなので俺は二人に相談した。


イトと結婚すること。

イトの腹には俺の子がいること。

イトの戸籍がないこと。


で、何をどうしたらいいだろうか、とぶっちゃけ話をした。


「イトさんに別の戸籍がないことは間違いないんだね。」次郎さんが聞いてくる。


「はい、そうです。」俺とイトは答えた。イトは戸籍のなんたるかすらわかっていない。


「じゃあ、あとは任せろ。悪いようにはしない。」次郎さんは請け負ってくれた。

彼が言うなら間違いないだろう。


「ところで、こっちからもお願いがある。」

次郎さんが言う。


まあ、断りようがないよな。


「あの勾玉、小さいやつを1000個用意してほしいんだが、できるかな?」

ちょっと意外な質問だった。


以前の俺だったら大変だろうが、今なら全く問題ない。


「大丈夫です。一週間あれば用意できると思います。」

そんなのお安い御用だ。


「そうか。それはありがたい。一個1万円でいいかの?」

次郎さんは言もなげに言った。

さすがに俺は驚愕した。


「え、そんなにもれません。」

俺は辞退しようとした。



「いやいや、これは村の予算から出すから、これくらいはしてもらわないと困る。」

次郎さんはよくわからないことを言った。


「え?村の予算?」おれはまごついた。


「そうじゃ。あの小さいのを、村の老人全員に配る。あれを持っていたら、膝や腰の痛みがおさまった。あれで、村の医療費が削減できるし、老人の健康が増進される。ちょうど予算があるし、それくらいは使いたいのじゃ。」


何だ申し訳ないな。


「実はそれだけではない。これは大規模な実証実験だと思ってくれ。」

なんだか難しい言葉だな。


「あの、実証実験って何ですか?まあ、何となく意味は分かりますけど。」

俺は答える。


かおりが代わりに答えてくれる。

「実証実験っていうのは、本当に使えるかどうか試すために実際に人を使って行う実験よ。これがうまく行ったら、勾玉を村の名産として売り出すの。」


名産?どういうことだろう、。


「パワーストーンよ。あれを持っていれば健康にいい、ってことにして売るの。もちろん、法律に引っかからないように、村では『村で採れる、伝説の石」くらいしか言わないわ。


あとはネットの口コミを仕掛ければいいの。実際に効果あるから、大丈夫なのよ。それで、ある程度有名になったら、ふるさと納税の商品にするの。ふるさと納税の場合、いちおう原価は3割までと言われてるのね。ふるさと納税をたくさん集めるためには、原価を高くしないといけないのよ。」


何だか凄い話になってきた。


「はあ、そういうものですか。村の名産にするということは、村役場で売るんですか?」

俺は聞いてみる。


かおりがそこで意外なことを言う。

「ううん。そうじゃないの。あなたがやるのよ。」


「へ?」まったく意味がわからない。

「どういうことですか?」


次郎さんが答えてくれた。


「地域振興のためには、村としても、地元企業から仕入れたい。これは随意契約になるから、そのための要件として地元企業から仕入れることにしておきたいのだ。それに、地元企業から地元の小売店に卸すのであれば誰も文句は言わない。だから、会社を作ってくれ。なあに、手続きはこっちで全部やる。「


俺はまだ抵抗する。

「でも、何をしたらいいかすらわかりません。僕は工場で工員をした経験しかないんですよ。」


「なあに、問題ない。業務は、かおりがある程度やるし、働き手のあてもある。きみは社長になって、あとは勾玉を安定的に供給してくれればいいんじゃ。 数はある程度で限定してもいい。


ふるさと納税はさておき、民間企業が勾玉を1個10万円で限定100個売るとか、誰も文句は言わない。限定10個と言って、その後100個売ったって文句は出ないぞ。」


何だか悪徳商法みたいになってきた。


「決まりね。羽庭くん、会社の名前だけ決めてくれる?一応、こちらの案としては、カタカナで株式会社ハニワコーポレーションにしようと思うんだけどいいかな?」


なんだかどんどん決まっていく。俺は答えた

「はあ。」


「じゃあ、準備するね。資本金は100万円。そこから経費を出すから。ゆうちょから農協に振り込んで、そのお金を資本金にしておくわね。」



もう何を言っているのかわからない。だが、かおりに任せておけばいいだろう。


「じゃあ、準備しておくから、あさって午前中に役場に来てくれるかしら?」

まあ、これは質問というより命令だな。


「了解しました。持ち物はなにか?」


「通帳とハンコとキャッシュカードね。郵便局とJAの両方ね。あとは運転免許。あと、イトさんも一緒に来てね。」


俺とイトは了解した。


「何がなんだかよくわからないなあ。」俺はこぼす。

「でも、かおりはソウに悪いいことはしない。だから大丈夫。」イトは請け合ってくれた。


その日と翌日は畑の手入れをした。

まず、小ハニワを100個ほど作る。これは5分とかからなかった。


次に、ハニワに土を耕すことを命令する。ハニワの手は小さいが、深く掘る能力は備えているようだ。


畑の、耕していない部分が、だんだんそれっぽくなっていく。

俺はその間に、追加でハニワを作ろうと思ったが、よく考えるとハニワを作るのが面倒くさい。

追加のハニワを作る理由が、壊しt勾玉を得るためだからだ。地上で作るとガラも多く出る。


であれば、勾玉だけも作れるのではないかと思ったのだ。


やってみたら簡単にできた。むしろハニワを作るよりラクだ。

というわけで、それほど時間もかからずに小さい勾玉が1000個出来てししまった。

900でも良かったんだが、ハニワにしたものとの効能が違っても困るからな。


これより大きい勾玉も作ってみた。

わかったことは、大きくすればするほど、妖力?がかかるという、考えてみればあたり前のことだ。


小さいものは作るのが簡単だが、力もそれほど強くない。まあ磁気ネックレスみたいなものだと思えばよいだろう。


力も、たぶん1年くらいしかもたないだろう。だがそれは取り換え需要ができるからいいんだろうな。


なんだか俺もあきんどっぽい発想をするな。ス〇ローかよ。

俺が勾玉を作る間、イトは庭でハニワたちに指示を出していた。


「はーい、こんどはここでこうやって畝を作ろうか。20番までこっちへ。

21蕃から40番はこの列ね。」


すでにハニワに番号をつけて管理しているようだ。ハニワが素直に従っているのは、イトの巫女の力なのか、それとも俺の奥さんだからなのか。


その日のうちに畑もできあがった。

何を植えたらいいかはちょっと待っておこう。




俺たちは、朝早起きして、俺のハイエースで麓の村に向かった。

早く出たので、9時すぎには役場についた。


「おお、よく来てくれたな。」次郎さんが笑顔で迎えてくれた。


俺は、向こうの村の酒と、なすとトマトの袋を差し出す。

「これ、差し入れです。お酒は、出所は言えませんが、すごくうまいです。トマトとナスは、庭で採ったものです。」


次郎さんはにこにこしながら受け取った。


「じゃあ、はじめようか。簡単なほうからな。」

そういうと、次郎さんはかおりを促した。


「じゃあ、まずは郵便局から農協に100万円送金するわね。これは会社の資本金になります。これだけ先にやるから、この書類を書いて、郵貯のハンコを打ってくれる?」


そこからはスムーズだった。郵貯の引き出し書類やら振り込み書類やら、会社の設立関係の書類とか、俺の印鑑証明とか、いろいろ言われたがよくわからない。


言われるままにハンコを押した。



「手続きしてくるから、その間におじいちゃんと話を確認しておいて。」

かおりはそう言って、隣の郵便局に向かった。送金手続きはどうせ彼女がやるのだ。


俺はその間に次郎さんに言う。「勾玉1000個、持ってきました。」


次郎さんは驚いていた。

「え、そんなに早く? まだこっちの準備ができていないぞ。まあ、放置するわけにもいかないので、まずは持ってきてもらえるかな?」


俺はハイエースに戻り、ビニール袋に入れた勾玉を持ってきた。

「袋に10個ずつ入っています。それを10個束ねてとめています。それが10個あります。」

わかりやすいように分けておいたのだ。


「おお、それは助かる。」次郎さんは言った。


ちょっと重いので、二つの段ボールに分けて入れてある。

俺とイトが一つずつ持って運び、役場の倉庫の棚に収めた。


かおりも戻っていた。

「これで終わりよ。あとは、私とおじいちゃんで手続きしておくね。委任状にもハンコをもらったし、やっとく。」

これで済むんだから、なんと素晴らしいワンストップ。


かおりが俺の口座で不正をするはずもないしな。清水一族の人間が、そんなみみっちいことをしなくてもいくらでも大きなお金があるだろうからな。


元来、俺は面倒くさがりだし、本当にありがたい。

かおりが社長でもいいくらいだな。まあさすがにハニワコーポレーションだから、それはまずいか。


そこへ次郎さんが、一人の老婆を連れてきた。

「おタキさん、この子だよ。」

次郎さんが言う。


「ああそうかい。わかった。あの子に似てるね。問題ないわ。」

老婆が言う。


なんのことかよくわからない。

「じゃあ、これでいいな。」

「ああ、いいよ。長生きはするもんだね。」


老婆は去った。

聞いてみると、この人は産婆さんだそうだ。

イトは、清水家の死んだお手伝いさんがこっそり生んだ子どもということになったようだ。


さっきの産婆さんが18年前に取り上げたという証明書を書いてくれるそうだ。

それで、イトは「絹野伊都」という名前で戸籍をもらえるということだ。


こっちは国がからむので、長いと1年以上かかるらしいけど、「田舎のノウハウ」で何とかなるらしい。

実は、話はそれで終わらなかった。イトの戸籍ができたら、イトは次郎さんの養女になるということだ。そして、結婚祝いとして、生前贈与でこの村の土地と家をくれるという。


そこまでしてもらっていいのかな。



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ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。

次回は駆け足の最終回予定です。













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