二十六話「次の戦」

団三郎狸、即ち佐渡島の神である。化け狸であり、且つ佐渡の国津神――妖怪と神の境目が薄い事の分かり易い例の一柱である。酒の入った陶器を腰に提げ、煙管を持ち、髭の生えた顔を前髪の辺りまで被った笠で隠した男がその団三郎狸である。



「それで?若造が何しに来た?」


「何だ?大分毛が汚い色になったじゃないか玉藻の媼、なあ?」


「はッ。質問に答えろこの外道が、何故自身のシマに狐を入れないお前がここに来るんだ?なあ?」


「お前ら狐には微塵も興味ないわ。俺が話があるのは吞乃様だよ。」



当然、狐と狸が同じ空間に居るのならば対立することは避けられない。声こそ発さないもののハクメンも警戒態勢に入っている。



「はあ……お前ら面倒だな。取り敢えず外出るぞ、話はそっからだ。それと団三郎は不用意に狐の隠れ里に入るな。」



吞乃は様々な団三郎を連れて、様々な隠れ里へとつながる関所となる隠れ里の中心街へとやって来てぬりかべが店番をしている茶屋の長椅子に腰掛けた。



「それで団三郎は私等に何を伝えたかったんだ?」


「おっと、需要なことを失念していた。それなんだが、もうすぐ人が軍を動かす、それも今までの比じゃない数になる。今回ばかりは本気で魔族を滅亡させる気のようだ。少なくとも兵の数は五十万は下らないそうだ。」


「へー。で、それの何がいけないんだ?」



何も知らない薬師の質問を無視して二人は会話を続ける。



「……成程ね。流石に人間が魔族を滅ぼすのは不味い。何のための魔族だ?人間と戦い続けるためだろう。双方ともに痛手を被って撤退してもらおう。」


「まあ、そういう話だ。吞乃様相手は話が早くて助かる。それじゃあまた――」



そう言って席を立つ団三郎の服の余裕を持った袖が、急に引っ張られた。



「ちょっと待て。」


「え?」


「お前が持ってきた案件だろう?筋を通してもらおうか。」


「おっと、これは手厳しい。それで、俺はどっちに行けば?」


「あーそれだがな。今回人間側の数が数だから真正面からぶつかる事は避けたいわけだ。そこで、私等の里に居る河童どもが組んだ徒党を使って本丸ができた後に破壊工作をして、それと同時に魔族の将を攻撃する。」


「成程、人間は組織としての力は高いがこの力が小さいから組織を瓦解させてしまえば数が残っていても大した戦力にならない。それに対して魔族は個の力が強いからそれを俺らで抑えようと言うのか。」


「うまくいくかは分からんが、まあ悪い策ではなかろう。」


「ですね。きっちりと策を立てようにも此方は彼らの軍について明るいわけではありませんし、詰め切ることが出来ないのは仕方無いでしょう。」


(へー。何も分からん。)


「まあ、俺らで何とかしますよ。その代わり、ことが収まったらいい酒を出してもらうぞ。」


「そうか。いいだろう。首を長くして待つがいい。」



そうして団三郎との会話を終えた三柱は河童の里へと戻って来た。



「おっ。お戻りになられましたか、吞乃様。」



三柱の帰還に真っ先に気付いた平蔵が声を掛ける。



「ああ、戻って来たぞ。それとお前たちに初めの仕事を命じていいか?」


「了解いたしました。何なりとお伝えください。」


「近々これまでにない規模で人間と魔族が軍をぶつけあう。そこでだ、まずお前らは一旦団三郎の管轄に入って、人間側に破壊工作を仕掛けて欲しい。細かい事は私が指示するからな。」


「了解しました。」

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水槽の月~我思うとも、我在らず~ 相対冷夏 @umeszon

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