第3話

「青山未来って女の子のこと知っている?」

「知らないな。」

 すると彼女はテーブルを叩いた。

 「君はいつまで青山さんから逃げ続けるの?!まだ彼女の遺品の手紙読んでないのでしょ!」

「手紙があるってことは彼女は自身の死を身近なものとして考えていたということなんだぞ!それなのに彼女はいつものように笑顔で自分は何も気づくことができなかった。彼女のことだ、どうせ自分のことは責めずにいてくれるだろう。でもそれで許される自分が自分で許せないんだ。」

 言い返すつもりが自分で言っていて自分がどんどん情けなくなってきて、頭を抱えたまま俯いてしまった。

「君は彼女のすべてを知っているわけではないのでしょ。」

頬に手を添えられ、顔を上げるとそこには真剣な顔の玉野さんがいた。

「昔の君は後から知って後悔したんでしょ。だったら今知れることは今知りなよ。」

 玉野さんはひと息つくと荷物を片付けて帰っていった。少し遅れて誰の差し金なのか気になり後を追ったが店を出た時にはもう玉野さんの背中は見えなかった。


 家に帰り、月明かりの中、ひっそりと自分の机の引き出しからまっさらな封筒を取り出し、意を決して中身を取り出した。

『この手紙をあなたが読んでいるということは私がいなくなって数年経っているんじゃないですか?昔から臆病で弱虫なのに責任感だけはしょい込むんだから』

 未来が自分のことをよく知っていることがわかる衝撃的な書き出しに思わず笑みがこぼれた。そこには未来が精いっぱい自分の心に残してくれていた彼女の幻影の本質がつづられていた。読み終えた後、手紙を封筒に戻そうとすると、封筒に文字が見え月明かりに当ててよく見てみると、

「くそっ、未来はなんでもお見通しかよ。」


『紫合総一くんへ

        私はあなたのことが大好きです。

                      

        暗闇の中なら家族にもばれないから泣いてもいいよ

                         

                          青山未来より』


















「社長、無事に紫合総一様の案件、完了しました。」

『ご苦労様、玉野さん、初仕事にしては上出来だったよ。本来は1週間で解決するつもりだったんだけどなあ。』

「ありがとうございます。途切れた思いを繋ぐのが私たちの役割ですから。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未来の手紙 巴里マカロン @3rdgrade

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ