勇気を持てない君へ
文楽
第1話
酷い音がした。その音が頭から離れない。立ち上がろうとしてみるも立ち上がれない、なんだろうこの感覚は、まるで片足を失ったみたいに感覚がない。立ち上がってプレーの続きをしたいと僕は思った。だが、身体は言うことを聞かない。タンカで運ばれ、上を見ながらぼんやりしていると監督が来て「大丈夫か?」
と僕に声をかけた。正直、大丈夫ではなかったが僕は監督に向かって
「大丈夫です。」
と答えた。その後、医務室に運ばれるとコーチが足をみてくれた。コーチは
「折れてるかもしれないから病院に行こう」
と言い、知り合いの病院を紹介してくれた。1、2時間待つと親が迎えに来てくれ家に着くことが出来た。まだ足は動かない。その間、だんだんと足が痛んできた、それは次第に大きくなっていった。
それから、急いで病院に向かうと外来の整形外科の先生が、僕の足をみてくれた。足は今までにないほど、紫色に変色している。
「MRIを撮ってみないと分かりませんねぇ」
と医者は言ったあと、MRIに運ぶようにと看護師さんに言った。
MRI室の中は殺風景で大きなバームクーヘンみたいな機械があるだけ、置いてあるベッドに誘導され、仰向けの状態で怪我をした方の足に専用の器具が置かれそこに足を乗せた。MRIは足を曲げたまま検査することは出来ないらしいから、なんとか足を伸ばそうと力を入れたが足は伸びないというか痛くて痛くて伸ばせない。例えるなら、足の内部にハリネズミがいるみたいなズキズキした痛みが足の内部から響く。だか、診察で貰った痛み止めが効いてきたのか痛みがやわらいできた。なんとか及第点くらいに足を伸ばすことが出来た。
すると、大きなバームクーヘンみたいな機械がすごい音を立てながら起動した。
何分たっただろか、時計を確認するとまだ5分しか経っていないじゃないか。時間がすごく遅く感じる。つまらない学校の授業と同じ感じだ。だが決定的に違うことがある。それは、このハリネズミが中に居そうな足の痛み耐えているということだ。僕はこの時間を有効的に使おうと思った。まず、何故このようなことが起こったのだろうと考えた。
あれはバレーの試合の時だった。試合はかなり白熱していて、僕も夢中でプレーをしていた。
だからかもしれない、相手にボールが渡った時、僕はブロックをする役割だった。相手のセッターが素早くボールをあげる、味方は誰もついていけない、スパイカーがノーマークだ。そこに僕が無理をしてブロックを飛んでしまったのだ。手にはボールが当たった感触が残る。仲間が勢いが落ちたボールをあげる。僕は心の中で、このプレーはいいプレーだと自画自賛した。だが、ボールが上がるのと反対に僕の身体は落ちていく。しかも、かなり体勢が悪い。コンマ0秒の意識のうちに右足を地面につけることを選択した。つま先から地面に着いていく、そしてかかとが地面に着いた時、その時僕の体重が右足に乗った。その瞬間、膝の部分が酷い音を立てながらズレるという感覚を覚えた。骨が砕けた音か筋肉がちぎれた音かは知らないけど、とにかく酷く大きい音がした。それから、足の感覚が無くなった。あとから友達に聞いてみると、倒れたあとの僕は、足の裏で踏み潰された蟻のようにヒクヒクしていたらしい。結構恥ずかしかった。
そんなことを考えていると、MRIが終わり医者のいる外来に案内された。対面した医者はMRIの画像を見て
「あーあ、前十字靭帯が切れていますね」
と言った。なんだそれは、と思った。医者は続けて
「前十字靭帯というのは、大腿骨(太ももの骨)の後方から脛骨(すねの骨)の前方にあってね、大腿骨に対して脛骨が前方に移動したり、回転することを制御している筋肉だよ」
と模型を見せながら説明してくれた。まぁとても重要な筋肉だということは分かった。医者の言っていることは何となく理解出来たが、頭の整理が追いつかない。口がパクパクしている。頭の整理に20秒もかかった。ここで僕は、この病院に来た最大の目的を話した。
「バレーはこの足で出来ますか?」
医者は
「うーんと、厳しいですね。MRIの画像を見たところあなたの前十字靭帯は完全に断裂をしている。これでは、太ももの骨とすね骨の制御ができずに半月板という膝のクッションをしている部分を確実に痛めてしまう。バレーするのは、前十字靭帯が治ってからでしょうな」
と言った。頭が真っ白になった。僕は、続けざまに言った。
「何ヶ月で治るんですか?」
「治るも何もこの靭帯は、一度切れてしまったら身体は再生出来ない。だから手術するしかないんだよ」
医者は淡々と言う。それはあまりにも冷酷な言葉だった。
「そしたら、いつ手術できるですか?」
「まだ中学生だからねぇ、高校生になって身長が伸びきるまでかな」
と医者は言う。ということは、あと2年もバレーが出来ないのだ。絶望という言葉がある。知っていると思うが、、、。それが今、この状況である。
それからしばらくして、診察は終わった。2週間分の痛み止めをもらい家帰る。あとから聞いたのだかこの時の僕は、まるで魂の無い抜け殻のような状態だったらしい。家に帰ってから、僕は監督に電話をした2回目のコールで監督が出た。
「もしもし」
「お疲れ様です」
「おう、お疲れ様、どうだ怪我は大丈夫か?」
「それが、前十字靭帯断裂で、、」
「、、、」
「もう中学でプレーは出来ないらしいです」
「、、、そうか、大変だったな」
「すみません、」
「いや、お前はよく頑張った。」
「、、、」
「部活はどうする?マネージャーとしてチームをサポートするか?」
「今は答えれません。またあとでいいですか?」
「もちろんだ。とにかく安静にしてろよ。お前の分まで頑張るからな」
監督はそういうと電話を切った。窓から見える夕焼けを眺めた。雲が太陽の周りを囲みしばらくして太陽が雲に隠れた。まだほんのり赤い空を見ながら昔を思い出す。大会で優勝した記憶、チームメイトと喧嘩した記憶、決勝戦で勝てなかった悔しさ、バレーに関連することばかり思い出す。
今の僕からバレーを引くといったい何が残るのか考えつかなかった。ここでバレーから離れると、これまでの楽しい記憶や悲しい記憶、勝利を分かちあったあの瞬間が消えてなくなるような気がした。ここで引く訳には行かない、負ける訳には行かない、逆風とは常に立ち向かうからあるのだ。僕はすぐ監督に電話をかけた。監督は3回目のコールで出た。
「もしもし」
「どうした?」
「すみません、いきなり、あの、、」
「マネージャーをやりたいです。あのチームで試合に勝ちたいです。」
「分かった。」
監督は強く言うと
「厳しい道かもしれんが、一緒に頑張っていこう」
「わかりました」
僕は強く強く自分に言い聞かせた。ここが踏ん張り所だ、負けるな俺。
あの経験が今の僕を強くしてくれていると思う。
人生とは苦労の連続だ。だが、それを越えた先には、より強い自分とそれに見合う幸せがある。
勇気を持てない君へ
今が踏ん張り所だ、負けるな。
勇気を持てない君へ 文楽 @kyarotto1510
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