最終話
「これは蘇生ではないわね。別に攻撃を耐えきったわけでもないようだし、まさか」
「そう、死霊魔法です。でも彼らも僕の為に働けるのなら本望でしょうし」
「最低ね」
死霊魔法は、死体を自在に操ることが出来る魔法。肉体を操るだけでなく、生前その肉体の持ち主が扱っていた魔法を使用させることが出来る。しかも本人は魔力消費を一切しなくて済む。実質手数を一つ増やせるため非常に強力な魔法だ。
ただし、死霊魔術の対象に一度でもなった者は蘇生させることが出来なくなる。
つまるところ目の前の男は、4人が生き返るチャンスをわざと潰して自分の力にしたというわけだ。
「いや~にしても感謝ですよ。現代の日本は人を殺すと牢屋に捕まってしまうから安易に人を殺せなかったので」
「生き返らせることも出来たでしょう!」
死霊魔法の使い手は全員蘇生の魔法を使うことが出来るのだから。
「と言われましても。別にわざわざ生き返らせる義理なんて無いんで。それに、5人で世界を取るよりも一人で取った方が圧倒的にお得ですし」
「あなたを生かしておくわけにはいかなさそうね」
今は法に従っているから被害者はこの4人だけだけれど、今後野放しにしておいたらどれだけの人が犠牲になるか分からない。
いつまで法を守るという確証が無いのだから。
「ただ勝てますかね?5対1ですよ?」
「でもやるしかないでしょ」
「どの道逃がすわけがないんですけどね」
再び戦闘が始まった。
「流石にきついわね」
先程とは打って変わって、完全に余裕が無かった。
別々の意思を持った5人ではなく、完全な個を相手にしているため連携に一切の隙が無かった。
パーカー男の接近戦を中心とした戦術で、パーカー男による攻撃の全ての回避先に残りの4人が攻撃を置くという戦い方は、先程と大きく変わらない。
しかし、パーカー男がどこまで攻撃を踏み込むのか、どういう攻撃をするのかを完全に把握しているため、一切の誤射を考慮せずに全力で魔法が放てるのだ。
そのため防御することすら叶わず、確実に避ける以外ないのだけれど、4人共範囲攻撃に長けているために避け場所が無かった。
結果離脱の為に転移魔法を使わざるを得ず、一気に魔力を消費する羽目になった。
「今の状態じゃこの魔法をぽんぽん使えないのよね……」
反撃の事も考えるのであればもう使用は出来ないと考えた方が良い。
これならばヒミコを連れて来れば……
いや、ヒミコを無駄に傷つけるだけね。あの子は戦闘に慣れていないから。
そんなことよりも、どうやって倒すかを考えなきゃ。
とりあえずパーカー男に近づかれた瞬間敗北が確定するのは間違いないわ。
まだ4人だったら動きを拘束できるのが天パしか居ないから。
かといって突っ込もうにも4人がかりで作られた防御魔法が固すぎる。
どうしようかしら……
パーカー男から避けながら策を考えていると、強烈な爆発音と共に4人の上から瓦礫が降り注いだ。
瓦礫程度で4人の防御を貫くことは出来なかったけれど、大きな隙は出来た。
視界が塞がれているうちにパーカー男から倒さないと。
私は10回重ね掛けした『ウィンドカッター』でパーカー男の四肢を切断し、完全に無力化した。
「助けに来たわ!」
「ヒミコ!」
爆発音の正体はヒミコによる魔法だったらしい。そしてヒミコの隣には見知らぬ女性たちが。恐らくアイドルの誰かなのでしょう。
「これ相手に一人でここまでやったんだ。アリスちゃん凄いね」
私を褒めるのは金髪ショートカットの女性。
「私は天才だから」
「でも、もうきついでしょ?私たちに任せて」
とヒミコたちが私の前に立つ。
「でも、ヒミコは戦えるの?」
「アリスと同じ戦い方は難しいけれど、私なりの戦い方があるんだ」
そう言って取り出したのは大量の魔法陣が入った透明な入れ物。あれはブロマイド等のカード系を綺麗に保存するためのスリーブかしら?
ヒミコはそこから魔法陣を取り出さず、そのまま使用した。
その魔法陣たちは4本の雷を生成し、4人を守る防御魔法に衝突し、貫いた。
「まさか!」
「そう、そのまさかだよ。魔法陣の重ね掛け」
「アレは魔力を大量に使うはず…… それに手書きじゃないと発動しないはずよね」
実は自分で組み立てる以外にも、全く同じ魔法陣を重ねて使用することで魔法を重ね掛けした状態で放つことが出来る。
しかし、魔法陣は手書き限定のため、印刷機でコピーという文明の利器を使うことは出来ない。つまり、自力で寸分の狂いも無い魔法陣を複数書かなければいけない。
そして仮にそれが出来たとしても、自分で組み立てる場合と違って消費魔力がかなり大きくなる。10回重ね掛けする場合なら大体3倍くらい。
しかもヒミコが打ったのは上級魔法。私だったら魔力を全部使いきる位の魔力量が必要となる。
「まあ私は魔力が多いからね。それに、こういうものがあるんだ」
ヒミコがスリーブから紙を取り出し、裏を見せてくる。
トレーシングペーパーだ。まさかそんな抜け道があるとは。
「種明かしはこんな感じ。皆!防御も砕けたしさっさと倒しちゃおう!」
「「「はい!!!」」」
「僕を舐めないでください!」
そんな梶本の言葉と共に、死体の3人から莫大な魔力の動きが見える。
「気を付けて!全力の魔法が来る!」
火力だけは無駄に高い教祖たちだ。いくら皆が強いとは言っても魔力量的に防げるとは思えない。
かといって反射しようにも巴さんが居る。
「え???」
しかし魔法が発動することは無かった。
『日本で戦いをするのは私が許しません』
「誰です!?私の邪魔をするのは?」
『私です』
私たちと梶本の間に現れたのは天皇だった。
「天皇様。これは私たちの争いです。手を出さないでもらいたい」
『そういうわけにはいきません。魔法を使って悪事を働こうとする者を止めるのは私の責務です』
天皇はサングラスが使っていたものと同じ魔法を使用する。しかし威力はけた違いで、梶野と死体をあっさりと地に押し付ける。
「たかが象徴が、手を出してくるんじゃねえ!!!!!」
と必死に抵抗する梶本。反撃に天パを使って魔法を放ったが、ダメージが通ることは無かった。
『反省の色が見えませんね。残念です』
悲しそうな顔をして梶本とその死体を完全に押し潰した。
『それでは』
あっさりと事件を解決した天皇はどこかへ飛び去って行った。
「とりあえず巴ちゃんを解放しないと!」
ヒミコの声で現実に引き戻された私たちは、巴さんを救出した。
「ありがとう、皆」
巴さんは私たちに深々とお礼をした。
「別に良いんだよ」
「どの道倒さなきゃ私たちもやられていただろうしね~」
「アイドル全体の問題だったから」
助けに来てくれた方々はとても親切な方だった。
少しくらい話したいところだったけれど、次の仕事があるからと帰っていった。
そして私、巴さん、ヒミコの三人になった。
「連絡を送ったのがアリスで本当に良かった」
「まあ倒しきれなかったけれどね。思っていたよりも多かったし強かった」
「ただその戦いのお陰で戦闘を察知できたから皆駆け付けられたんだよ」
どうやら戦闘に使われた魔法に込められた魔力が大きすぎて遠くの魔力感知にすら引っ掛かってしまっていたらしい。
確かにあれだけの魔法を日常的に使うことはないものね。
「にしても天皇さますっごい魔力だったよね。前世の私より凄くてビビっちゃった」
「確かに圧倒的だった。私の時代でもあのレベルは中々いなかったな」
二人が褒める通り、天皇の魔力はあまりにも強大だった。
「私たちもそこそこ人気だけれど、日本国民全ての象徴には敵わなかったみたいね」
日本で最も知名度が高く、最も偉いと認識されている期間が長いのが天皇陛下。
実権としては総理大臣の方が強いけれど、圧倒的歴の長さと不変であることが魔力を強固にしていた。
熱狂的な方は少ないだろうけれど、1億3千万人という圧倒的母数は凄かった。
前世の私くらいの魔力があれば勝てるかしら?やってみないことには分からないわね。
「でもそれくらい強くなってみたいものだな」
巴さんは圧倒的強者を見て、闘争心が掻き立てられたようだ。
「私もあれくらいになってみたいな」
「そうね」
一旦の目標は天皇を超える魔力を手に入れることになった。
4年後、私たちは順調にアイドルとしての街道を進み、『ARROWS』、『YAMA』、『magic stars』は名実ともに日本一のアイドルグループと言っても差し支えないレベルまで成長した。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
新たな信者を得るため、そしてより大きな事を成し遂げるために『magic stars』は海外進出をすることになっていた。
今日は海外に行く日ということもありヒミコと巴さんが見送りに来てくれていた。
「行かないで!私を置いていかないで!」
と泣きながら私たちに縋ってくる巴さん。4年という歳月の中で巴さんの本性がバレた結果、私たちのファンであることを一切隠さなくなった。
「大丈夫だって巴さん。海外に進出するって言っても拠点は日本ですし、なんなら来週日本に戻ってきますから」
すっかり扱いに慣れた翼は、巴さんを優しく抱き留め宥めていた。
「その一週間が辛いんだよおおおおお……」
「巴がごめんね……」
その様子を見たヒミコが私たちに謝る。
「大丈夫。問題なのはこいつ」
凜も本性を知ってからは扱いがどんどん雑になっていった。今では敬意なんてものは欠片も存在しない。
「実際ヒミコは寧ろ被害者の方だからね……」
一週間海外に行ってくると巴さんに話したら、かなり深刻に受け止めてしまって、本格的にお見送りをするとか言い出したのだ。まあされる分には構わないかと思って許可したのだけれど、一人で『magic stars』の三人と会話するなんて絶対無理!気絶しちゃう!とか言ってヒミコを無理やり連れて来たらしい。
先輩を無理やり連れてきて後輩の見送りに付き合わせるってどうなのと個人的には思うのだけれど、まあこの人だから仕方ない。
「その代わりに練習に付き合ってもらうことになっているから」
「それなら良かった」
「ほら巴、これ以上抱き着いていたら迷惑がかかるから」
ヒミコは巴さんを翼から引き剝がした。
「いってらっしゃああああいいいい!!!」
「いってきます」
「はい」
「分かった」
巴さんの大げさすぎるお見送りを受けて、私たちは海外へと飛び立った。
最初の標的は中国、世界一の人口を誇る国。そこから精一杯ファンを作り出して私は世界最強のアイドル魔法使いになってみせるわ!!“
転生した最強の魔法使いはトップアイドルを目指します 僧侶A @souryoA
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