第19話

「さっさと倒さないと不味そうです!早く戦闘態勢に」


 全く喋っていない梶野が私の行動に気付いた。この中で一番立場が低いのかと思ったけれど、一番手ごわいのは彼のようね。


「これはどうだ?」


 最初に攻撃を仕掛けてきたのは天パ。一切属性を乗せていないただの魔力放出ではあるが、その指向性、サイズを変化させることで攻撃手段としている。


 次々に襲い掛かってくるレーザーのような魔力の向かう先を予測し、ギリギリで避ける。


「NAITOさんもまだまだですね!こうするんですよ!『ジャッジメントレイ!』」


 禿げ頭が使ったのは光属性の最高位魔法。足元から次々と光の柱が上がる。


 食らったら消滅不可避の魔法だけど、どこから出てくるかが見え見えだから簡単に回避できる。


 不意打ちでもされない限りは当たることは無い——!


「僕、正々堂々と戦ってあげるほど真面目な存在じゃないんで」


 背後からパーカー男が直接殴りかかってくる。魔力を極限まで抑えることで気配を消していたのね。


 私は咄嗟に初級の爆発魔法、ボムを近くで発動し爆風で距離を取る。


 ダメージを食らってはしまうけれど、あの中で戦うよりはマシ。


「一番ひ弱そうな男が肉弾戦担当なのね」


 いくら魔法で体を強化できるといっても鍛えるに越したことは無い。


「相手を殺せるくらいの身体能力があれば十分なんで。それにこっちの方が油断してくれるので助かるんですよね~」


 そんな軽口を叩きつつこちらへ真っすぐ向かってくる。相手が女だから肉弾戦になれば余裕とでも思っているのだろう。


 それは実際に正解だ。真面目に肉弾戦をしたのであれば筋肉量も魔力量も無い私に勝てる道理は無い。


 なら拳で相手をしなければ良い。


 私は魔力で円形の刃を数個作り、高速回転させる。お手軽なチェーンソーだ。


「それは食らうのは不味いですね」


 威力の高さを理解しているらしく、攻撃を一旦やめて引いてくれた。


 私に一撃を当てることは出来るのだろうけれど、それを選ぶことは無かった。


 卑怯な攻撃を仕掛けてくるから、自分の身に危険が及ぶのを嫌がると思ったのだけれど予想通りみたいね。


 これをちらつかせれば他の4人が完全にピンチに陥るまでは攻撃してこないだろう。


「『グラヴィティ』」


 サングラスがかなり低い声で言った後、自分の体が突然重くなった。


「グラヴィティ、ね」


 彼は自信満々に重力魔法だと宣言しているが、ただの風魔法だ。大気を圧縮して対象の体を押し潰しているだけ。


 この時代で化学を学んだときは流石に驚いたわね。固有魔法では無くて誰でも再現できる魔法だったなんて。


 そんなことはさておき、正体は風魔法なので私も同じように風魔法を使って私に乗っている大気を吹き飛ばす。


 そして次は梶野の番、とはいかなかった。隙を見て巴さんを救おうと思ったのだけれど、きっちりガードしていて攻撃を仕掛けてくる気配は無い。


 流石にしっかりしているわね。


 救出を一旦諦めた私は、3人をしっかりと倒す方針に変更する。


 まず狙うのは禿げ頭。火力はこの中で一番高いが、その分隙が一番大きい相手。


「『ジャッジメントレイ!』」


 先程と同じ魔法を使ってきた。それに合わせて雷魔法、『ライトニング』を放つ。


 ランクとしては最低級の魔法だけれど、20回程重ね掛けをしたら十分に殺傷力を持つ。


「ぐはっ!」


 光魔法によって発生した強い光も相まって雷を視認することが出来なかったらしく、胸を貫かれてその場に倒れた。


「まずは一人」


 相手は強力だけれど、パーカー男以外は単独の敵を相手することに慣れていないみたいね。


 教祖をやっていただけあって、かなり集団戦闘向けの戦い方みたい。


 それでも有象無象とは比較にならない位に強いけど。


「江頭さん倒されてしまいましたね」


「まあ、負けちゃったものは仕方ないですね。王たる資格がなかったってことで」


「それでもこちらの方が圧倒的優位です。ちゃんと協力すれば大したことはありません」


 味方が倒されたというのに一切気にする様子もなく、私を倒す事を考えていた。


「仲間じゃないのかしら?」


「仲間だったですけど、無能は要らないんで」


 軽薄そうに笑うパーカー男。他の三人も同意しているあたり、本気で仲間だと思っているわけではないのだろうか。


「同士と言いつつも、実態はビジネスパートナーってことね」


 使えなくなったら容赦なく切り捨てる。最高に気持ち悪いわね。


「じゃあいきましょうか」


 天パの合図で芸人以外の三人が同時に攻撃を仕掛けてくる。


 天パが魔法で私の逃げ先を誘導し、サングラスがその位置にグラヴィティを仕掛けて行動を制限、パーカー男が直接攻撃を仕掛ける。


「その程度で私を倒せるわけないでしょう」


 私はサングラスに狙いを定め、私の頭上にある大気を使用して風魔法『ウィンドカッター』を使う。


 押しつぶすために必要な大気を失ったサングラスの魔法は行き先を失い、無効化される。


 そんなことに気付かないパーカー男は私に攻撃するために突っ込んでくる。


「残念」


 私はパーカー男に向けて10回重ね掛けした『フレイム』を放つ。


 いくら機動力が高くても周囲数メートルを包み込む火炎を避けることは叶わず、体を焼かれその場に倒れた。


「残るは二人ね」


 芸人はただこちらを見ているだけで一切攻めてくる様子は無い。残る二人を倒すまでは戦う気が無いのだろう。


 二人はパーカー男が倒されたことを気にすることなく、ひたすらに攻撃を仕掛けてくる。


 変わったことと言えば、しっかりと防御の魔法を貼るようになったことかしら。


 その分攻撃に割くリソースを失ったようで、先程までの勢いはない。


 お陰で威力を上げることに専念しやすくなったわ。


 私が選択したのは、『ウォータースピアー』。中級魔法だけれど、貫通力はそれより行為の魔法と引けを取らない。その分範囲を犠牲にしているけれど、重ね掛けでスピードを向上させれば不自由なく命中させられる。


 流石に初級魔法と比べて重ね掛けの難易度が上がったのに加え、二本を同時に生成したため時間がかかる作業だったけれど無事に完成させられた。


 魔法に気付いたみたいだけれど、止める術を持たない二人は正面から攻撃を食らう。見事に腹を貫かれた二人はその場に倒れていた。


「どうにかなったわね」


 魔力量は大きかったけれど、強さ的には大したことは無かった。


 教祖なだけあって自分が一番上にあろうと意思が強すぎて、連携が余りにもお粗末だったもの。


「さて、残るはあなただけよ。梶野さん?降参したらどうかしら?」


「梶本です。後、僕は別にピンチに陥っているわけじゃないんで。ほら、復活してくださいよ!」


 梶本の声と同時に、倒したはずの4人の体が起き上がった。

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