第18話

「テレビって凄いね、私のこと何でも知っていたよ」


「まさか別のオーディションに参加していたことまで知られているとは」


 翼と凜は、テレビの凄さに驚いていた。どうやら、私たちそれぞれ別の質問をされていたらしい。


「しかも1時間も質問をしたのに番組は明日撮影ってのが化け物だよ。私たちじゃあできないよ」


 と秋は言う。どうやら1時間も質問攻めにあっていたらしい。考える時間もあったので内容的にはもう少し少ないかもしれないが、テレビの実力を感じる。


「私たちもそれに応えないとね。それで秋、次の仕事は?」


「ご飯を食べたら雑誌の写真撮影だね」


「オッケー」


 スタジオに着いた私たちは、水着を来て数枚の写真を撮った後ホテルに戻った。


「秋、何見ているの?」


 夕食まで微妙に時間があったので私の部屋に集まることになったのだけれど、何故か秋はスマホ画面と私たちを交互に見ている。


「何かあったの?」


「いやあ役得だなあって」


「見せて」


 嫌な予感がしたのでスマホを奪い取ると、画面には私たちの水着姿が映っていた。どうやら、水着と本物を見比べていたらしい。


「秋?」


「いや、その、ね?可愛いものは目の保養になるじゃん」


「でもね、本人の前でやるのはどうなのよ」


 普通に水着を見られるよりも嫌な気分がするわ。


「まあまあ、こういうのが仕事なんだし。慣れていかないと」


 と私を宥めようとする翼。アイドルになる事を昔から熱望していただけあって、心構えが完璧ね。


「それに私たちは可愛い。だから恥ずかしがることじゃない」


 真面目に自分の事を可愛いと言ったのは凜。アイドル稼業というか、私の自信満々なところが移っているみたい。


「まあそれもそうかもね」


 これから先水着なんて何回でも秋に見られるし、何なら世界各国の信者にも見せつけるのだからこの程度で恥ずかしがっていたら駄目よね。


「それはそれとして、秋ちゃん?」


 私は刃を納めたのだけれど、代わりに翼が抜刀した。


「えっと?何かな?」


「私たちが見せたんだから、当然秋ちゃんも見せなきゃだよね?」


「私水着なんて持ってないよ?」


「ここに私たちのがある」


 秋は全力で回避しようとしたが、凜が逃げ道を塞いだ。


 実は先程の撮影で使った水着を何着か頂いていたのだ。


「私アイドルじゃないんだけど……」


「大丈夫!可愛いから!」


 アイドル程可愛くないと自信なさげな秋だけど、普通に可愛いのよね。


 私の美貌には及ばないとしても、モデルとして食べていける位はあるのよね。


「うううう……」


 多少の罪悪感があったのか、それとも水着を本当は来てみたかったのか分からないけれど、着替えるためにトイレに入った。


「いやあ楽しみだねえ」


「秋は中々素質がある。絶対に可愛い」


 二人が楽しみに待っている中、スマホの通知音が鳴った。


「ちょっと確認するね」


「うん」


 森川さんあたりからの仕事の連絡かなと思ったけれど、送り主は巴さんだった。


 魔法の訓練で詰まった所でもあったのかなと思い画面を開くと、


『たす』


 とだけ書いてあった。


 ミスかなと思い『何ですか?』と送ってみたけれど既読が付く様子が無い。


 悪戯をするような人ではないよね。一応ポケットに入れたら暴発してしまったという線もあるが、しっかり者の巴さんがそんな初歩的なミスをするとも思えない。


 となると何か異常事態が起こったと考えるのが妥当。『たす』は助けてのことだと考えればしっくりくる。


「ちょっと用事が出来たから外に行ってくる。秋の水着は写真に収めといて!」


「隅から隅までばっちり撮っておくね!」


「任せて」


 私は翼と凜に伝えた後、部屋を出る。


 私は魔法を使い、巴さんの居場所を探る。


 有事に備えて巴さんの居場所を特定できるようにしていて良かったわ。


 東京の地形には詳しくないから分からないけれど、とある方向に向かって移動しているわね。スピードと動き方を見るあたり車かしら。


 仕事での移動中ならスマホを弄っているだろうから、攫われているという線がより濃厚になってくる。


「急がないとね……」


 私は魔法を使い全速力で走った。


 巴さんを追って辿り着いたのは山の中にある倉庫だった。


「東京にもこんな場所があるのね」


 令和の東京とはかけ離れた、まるで昭和のような建物だった。


 ただ反応はその中にある。入らないという選択肢は無かった。


 重い扉を開くと、中には椅子に縛り付けられた巴さんと、それを取り囲む男が5人。反応的に全員魔法使いのようね。しかもそこら辺に居るようなレベルではなく、この世界では強者と言える位に。


「巴さん!」


 私は巴さんを助けるために駆け付けようとしたが、彼女を取り囲んでいた男達に阻まれる。


「ああ、あなたは『magic stars』の星野アリスさんか。ここに何の御用で?」


 私の事を知っていた男性は、天パが特徴的な筋肉質の男性だった。名前は知らないけれど確かOurTuberだった気がするわ。


「巴さんがここに居ると聞いたから会いに来たのよ。それよりもあなたたちは?」


「私たちの事をご存じでない?いやあ残念だ。世間でもかなりの知名度があると思っていたんだけれどなあ」


 大げさに残念がるのは真っ黒なサングラスを掛けた、ボス感溢れる30代くらいの男性。


「アイドルを志すくらいですからね。自分に強い自信を持ち真っ直ぐに生きてきたんでしょう。私たちのマーケティングには合わなかっただけですよ」


 そんなボス面を励ますのはただのハゲたおっさん。江頭良仁だった。


「知らないようですし自己紹介をしておいた方が良いんじゃないですか?僕はとものりって言います」


 そしてパーカーを来た軽薄そうな男はとものりという名前らしい。


「こんにちはNAITOです」


「田中です」


「江頭です」


「あっ、梶本です」


 天パがNAITO、サングラスが田中、そして今まで何も話さずに呑気に見ていた男が梶本と言うらしい。


 梶野だけはうっすらと覚えがある。小学校の時に大人気だったバラエティ番組のMCだった気がする。


「そんなあなた達が巴さんを拉致して何をする気なの?」


「拉致ってそんな物騒なことはしていなくて、単に話がしたいだけなんですよ」


 そう語るのは確かNAITOでしたっけ。


「椅子に括り付けて、男五人で囲って何が話し合いかしら。そんな素晴らしい話し合いがあるなら私としても興味があるわね」


 と軽口をたたいてみるが、怒る様子は無い。自分たちに利があると分かっているからだ。


「あなたにも話があるんですよ。どうです?聞いていきませんか?」


「そうね、聞いても良いのだけれど巴さんを開放してもらえないかしら?」


「それは出来ません。お話の途中なので」


「残念」


 せめて2対5になれば勝機が見えてくるのだけど、どうしたものかしら。


「まああなたが聞く耳を持たなかったとしても話すんですけどね。田中さんお願いします」


「分かりました、私がお話しましょう。率直に言います。あなたたち二人にはアイドルを引退し、芸能界を去っていただきたい。星野さん、あなたはOurTubeもです」


「それはどうしてかしら?」


「他の魔法使いの存在は、私たちの計画に邪魔なんですよ。魔法という圧倒的な力を持つ存在は私たちだけで良い」


 だからアイドルの引退が相次いでいたのね。恐らく、私たちのライブ当日の戦闘でアイドルに魔法使いが居ることがバレてしまったみたい。


 ほんとあの人たちは碌なことをしないわね。


「計画って?」


「私たちは国を作りたいんですよ。私たちの信者をそこに住まわせ、絶対的王者として君臨する。そしてゆくゆくはこの世界を支配し、地球という惑星の王となる。私たちがこの世界を作り替えていくのです」


 と語る田中は自分に酔っているとしか思えなかった。よく言ったと言わんばかりの4人の拍手も相まって非常に気持ち悪い。


「可哀そうな頭をしていらっしゃるようで」


 力で全てを支配しようと試みた存在は更なる力によって叩き潰される。それが自然の摂理だというのに。どうしてこんな人間は後を絶たないのでしょう。


「あなた程度には到底理解できないでしょうね」


 その顔は、私たちだけでなく信者すらも見下している目をしていた。


「なるほど、元教祖様ってわけね」


 全ては自分の為に人々を扇動し、数々の問題を引き起こした元凶である教祖の今の姿がこれなのね。


 口では人を正しい方向へ導くと言いながら、実際は自分の利益のみを最大にするように動く最低な人間。私が前世で一番忌み嫌った存在。


「まさか気付かれるとは思いませんでした。あなた、今の魔力以上に強い存在だったんですね?」


 と言ってはいるものの余裕を崩す気配がない。


「なら実力差を弁えて引いてくれませんかね?」


「でもそれは過去の話ですよね?今はそんなことないじゃないですか」


 淡い期待もとものりによって打ち砕かれる。


 結局戦う以外の選択肢は無いらしい。


「仕方ないですね」


 私が最強の魔法使いだった理由は魔力の大きさだけではない。やれるところまでやってやろうじゃないの。


「かかってきなさい、凡人共」


 私より未来に生きていて、どれだけ進んだ魔法を持っていようと、私よりも遥かに強大な魔力を持っていようと、最強は私なのだ。

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