第17話

 そして一時間後。


「出来たぞ師匠!」


 適切な魔力の込め方が分かったようで、一本目が成功した。


 それから試しに数本試させてみた所、全てエンチャントが出来ていた。


「まずは第一ステージ突破って所ですね。これで大分魔法におけるロスは無くなったはずです」


 魔法発動に必要な部分にのみ魔力を費やす感覚はある程度掴めた筈。


「そうだな。これなら魔力不足で使えなかった魔法でも使えそうだ」


 巴さんはその魔法を使いたそうにうずうずしている。


「巴さんの魔力で発動ギリギリの魔法を使うと山が吹っ飛ぶのでやめてくださいね」


 流石にそれは私にもどうにもならないし、確実に私たちが被害にあって死ぬわ。


「それは分かっている」


 目の前に居るのが常識を持った人で良かった。


「じゃあ次に入りましょうか。生活魔法のシャドウって使えます?」


「シャドウってあの部屋を暗くして昼でもよく眠れるようにするための魔法か?」


「そうです。今回はそれを使います。とりあえず見ていてください」


 私はシャドウを構築する。そしてその発動直前に全く同じ魔法をその上に書き込む。


 それを20回程続けて行った。


 その結果、半径5m程が闇に包まれた。


「というわけです」


 私は魔法を解除し、周囲は元に戻る。


「生活魔法なのに凄い出力だな。結構魔力を使ったんじゃないか?」


 普通は目元にアイマスクのようにかける魔法なので、規模の違いに驚いたようだ。


「いや、そんなことは無いですね。単に重ね掛けしただけなので」


「重ね掛けでもこんな威力になるのか?」


「まあ20回もかけたらこうなりますよ」


 一度重ね掛けする毎に威力は何倍にも跳ね上がるのだ。そりゃあ20回もやれば天文学的な倍率にもなる。


「20回!?」


「扱いが簡単だからというのもありますけどね」


 シャドウは生活魔法ということもあり、工程が非常に少ないのだ。


「流石師匠だ」


「これと同じことを巴さんにはやってもらいます」


「私は2回が限界なのだが……」


「それは使うたびに魔法の大きさが違うからですね。重ね掛けっていうのは石を積み上げていくようなものです。全く同じ品質の魔法を作り続けることが出来れば理論上いくらでも重ねることが出来ます」


「そうだったのか……」


「これはどの時代の人も知らない内容でしょうしね」


 その発見は唯一誰にも公表しなかった研究結果だ。理由は簡単で、寿命で死ぬ寸前に発見したせいで誰にも言えなかったからなんだけれど。


「そんなもの、教えてもらって本当にいいのか?」


「良いですよ。別に悪用する人じゃないって分かってますし」


 それに私たちの大ファンだから敵に回るなんてことはそうそう起こらないでしょうしね。


「そう思って貰えるのは嬉しいな」


 巴さんは穏やかな笑みを見せる。こういう所がファンを増やしてきたんだろうなあ。


 それからしばらくは、巴さんの発動する魔法を観察してアドバイスをし続けた。


 思っていたよりも遥かに飲み込みが早く、2時間ほどの練習だったが5回の重ね掛けまで成功させることが出来た。


「大体コツは掴めましたか?」


「ああ」


「これから先は自力で練習してみてください。成功したら次の段階に入りますので」


「分かった」


「じゃあ帰りましょうか」


「そうだな」


 私たちは都内に戻り、一緒に夕食を食べてから解散した。


「巴さんに魔法を教えていて思ったけれど、ヒミコにも教えてあげないとね」


 魔法陣を極めていることもあって基礎自体はかなり強固だし、私たちや『ARROWS』と比較にならない位人気だから魔力も十分にあるけれど知識に関しては浅いのよね。


 私は巴さんに教えた内容に加えて、現時点のヒミコなら出来るであろうさらに先の部分を書いて送った。


 それからしばらくして連絡が返ってきた。『ありがとう。練習してみる』とのこと。


 ヒミコは強くなることに重きを置いているわけでは無いけれど、自己防衛が出来るに越したことは無いわよね。




 翌日、ホテルで目覚めた私は別の部屋に居た三人と朝食を食べ、テレビの仕事へ向かう。


 ライブが好調だったのと、先日宣伝も兼ねて出演した番組の反響が良かったようでオファーが来たのだ。


 今日は放送作家の方と番組に関する打ち合わせ。ざっくりとしたプロフィールではなく個人にしっかりと焦点を当てたいらしく、実際に会って話がしたいと言われ呼ばれていた。


 前回はレギュラーの方に気取られないように潜入のような形で入ったが、今回は関係者用の入り口から堂々と入る。


 予め場所を伝えられている秋の案内でテレビ局の中を歩いていく。


 すると、様々な芸能人の方とすれ違うわけで、芸人や俳優、歌手など様々な有名人を目にすることが出来た。


 とはいっても同業者。別に深いかかわりがあるわけでもないので簡単なあいさつ程度。


 そう簡単に仲良くなれるわけでは無い。


「あ、AK坂だ!しかも宮村さんや酒井さんがいる!」


 その中には日本最高峰のアイドル、AK坂の姿もあった。反対側の通路に居たため、会話をすることは叶わなかったが、直接姿を見ることが出来た。


「リーダーもいるね。特番とかに出るのかな?」


「あの人達の中にリーダーが居るの?」


 AK坂はよく分からないので、盛り上がっていた翼と秋に聞いた。


「うん!あのポニーテールで身長が高い子がリーダーの宮本さん」


 高くなったテンションそのままで、翼は説明してくれた。


「あの人がリーダーなんだ」


 遠くから見えるだけでも相当なオーラを放っている。けれど、『YAMA』の3人に勝てない?


 話によると、CDの売り上げやライブの動員数などはアイドルだけでなく日本でもトップに君臨するレベルらしいけれど。


 OurTuberで言えばPIKAKINとかアカルさん位に位置するファン数、信者を抱えたAK坂のリーダーがあの程度?


 魔力の動き的に隠しているわけでも無さそう。どういうことだろうか。現代社会で影武者なわけないだろうし。


「やっぱり皆可愛いよね~」


「流石日本一のアイドルグループ」


 凜もそう言っていることだし、AK坂で間違いないらしい。


「私たちはあの位置に立つんだよ」


「それは分かってる」


「勿論!」


 私の感情を二人に気取られないように、そう結論付けて話を終わらせた。


「ここだね。失礼します」


「「「失礼します」」」


 私たちが部屋に入ると、既に番組の関係者の方々は集まっていた。


 それから私たちは個室に分かれ、様々な質問を受けた。


 アイドルになった理由や幼少期のエピソード、アイドルになる前は何をしていたかといった過去に関する話や、メンバーと最初に会った時の印象と今の印象、メンバーの好きな所、実質的に個人事務所になっている現事務所についての感想など、アイドルになってからの話等を聞かれた。


 多少は深堀りされると聞いていたけれど、まさか事務所について聞かれるとは思わなかった。けれどそれ以外は大した質問でもなく、正直に答えることにした。


 再度集まった際の相手の反応から、ちゃんと番組で全て使ってくれそうだと手ごたえを感じた。


「では、ありがとうございました。撮影は明日行いますので、どうぞよろしくお願いします」


「「「よろしくお願いします!」」」


 軽くあいさつをしてテレビ局から出た。

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