らすと
「はい。オッケーでーす!」
つい先程カメラを止めるていで合図を出した筈のディレクターが、今度は本当のOKを出す。カメラマンはその合図を聞き、今度こそ本当にカメラを止めた。
「いやー。撮れ
ディレクターが上機嫌で勇者たちに駆け寄る。
「ありがとうございます。そう言ってもらえたならやりがいがありましたよ」
天空に掲げていた剣を
「でもこれ本当に放送して大丈夫なやつですかね?なんか本家から訴訟起こされたりしないですよね? あと自分でも何言ってるのかよく分からないですけど、大いなる何かしらの力でアカウント停止させられたりしないか心配なんですけど」
若干不安そうに勇者が言う。それに対して、ディレクターはすました表情でかぶりを振ってみせる。
「それなら大丈夫ですよ。オープニングでちゃんと『このお話はフィクションです。実在の人物、団体とは関係ありません』とかって入れておきますから。それにこれで訴訟を起こされるぐらいならとっくにスク○ニあたりから起こされてる筈ですから大丈夫ですよ。ちなみに、残念ながらこの番組毎回そこまで視聴率も稼げてないので、勇者さんの言う大いなるなんたらもきっと気付かない筈ですよ」
「まあ、そういうことなら良いんですけど……」
勇者たちはなんとなく腑に落ちない気分ではあったが、まあ偉い人が言うのなら大丈夫なんだろうと納得することにした。
「それじゃあ、私とカメラマンは先に魔王城に行って準備しておきますんで。勇者さんたちは一旦休憩でもしてからいらしてください」
そう言い残し、ディレクターはカメラマンを引き連れて、足早に魔王城へと続く一本道を行ってしまった。
「私たちこれで良かったん……だよね?」
ディレクターたちを見送りながら魔法使いが呟く。その問いに勇者が応じる。
「大丈夫ですよ、魔法使いさん。『普段真面目に戦っているばかりの僕らにも、実はこういうお茶目な一面があるんだってことをお茶の間に見せることで、さらに僕たちの人気アップを図りたいって言ってくれたあのディレクターさんの言葉を信じましょう!」
そう言って、曇り無き
「うん。まあ……それもそうね! あんまし考えすぎても仕方ないし。ギャップが大事だもんね?」
「そのとおりです。このあと魔王さん
勇者一行の朗らかな笑い声が、秋晴れの空に長い間響き続けた。
一方その頃、魔王城では――
「フハハハハ! 良く来たな愚かなる人間どもよ!」
自室の鏡を前に魔王がセリフ練習に励んでいた。
「うーん……。『愚かなる人間どもよ』は少し偉そうな感じになるかなー? やっぱりここは『褒めてつかわす』ぐらいのほうが良いのかなー? 悩むなー……」
魔王が渋い顔で台本とにらめっこをしていると、コンコンと、部屋のドアをノックする音がした。
「魔王さん。今大丈夫ですかい?」
「ああ、大丈夫ですよ。どうぞ」
聞き慣れた声に魔王が返事をすると、開けたドアの向こうからベテラン幹部が顔を覗ける。古い刀傷だらけの
「練習中にすいやせんねえ」
「ベテラン幹部さん、どうかしましたか?」
「ちょうど今しがた
「そうですか。じゃあきっと勇者さんたちの撮影は無事に終わったんですね」
プライベートでは勇者と親交の深い魔王は、ホッと胸を撫で下ろす。
「でもよく引き受けましたね。勇者の旦那たちも、あんな汚れ役」
「確かにそうですね。勇者さんたちならてっきり断るかと最初は僕も思ってたんですけどね」
「まあ、あっしらの若い
ベテラン幹部が本当に感心したようにウンウンと頷く。その分かりやすい説明を聞きながら魔王は考えた。
勇者さんたち、もしかしたらまた騙されてるんじゃないだろうか?いや、さすがにそんなわけはないか。
魔王は、何かにつけて偉い人たちを疑りすぎるのはよくないな、と苦笑した。
「それより、良かったら魔王さんのセリフの練習、あっしが手伝いやしょうか?」
「ああ、それは助かります。じゃあ勇者さん役、お願いしても良いですか?」
「へい!」
「じゃあいきますよ? フハハハハ! よく来たな! 褒めてつかわす!」
「お前を倒してこの世界に平和を取り戻すまで、俺たちは負けない!」
後日、無事に放送を終えた『平熱大陸Xの流儀』は、主役の魔王が己の呪われた力と野望に
勇者たちの戦いは続く!
勇者のお仕事シリーズ nikata @nikata
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