ハッピーバースデー to me[5]
「誕生日おめでとう!何欲しい?」
そう声を掛けられたのは女子トイレの前だった。
女子学生あるあるその3位に位置する、他クラスの子とトイレで会って井戸端会議。私にとってそれは酷く大きなイベントだった。
「え~?」
何て答えようか。桜が欲しい。そんな事言ったら嫌われるかもしれない。絶対本気だとは思われないだろうけど。欲しいのは貴方の視線だとか意識だとかそんな、愛情の裏表みたいな物。でもそんな事を言うようなキャラじゃないから、迷うふりをした末に明るい声で言う。
「お金!」
「だめじゃそりゃ。私愛情しか上げられない」
そう笑う彼女に、胸が温かくなる。別にこれは彼女にとって告白じゃない。でも、私にその貴方の「愛情」を渡すという考えがある事とか、私はその愛情の受け皿となれる事とか、そう思うと嬉しくなった。
五分前のチャイムが私たちを引き離す。
幸せの色は消えなかったけれど。
数日後、桜が私のもとへ走って来た。
「はいこれ!誕生日プレゼント、遅れちゃってごめんね」
「ありがと!見ていい?」
「うん」
「何貰ったの?」
さっきまで話していた帆波と一緒に紙袋の中を覗き込んだ。
「これB5のファイル、二つの穴のやつだから使いにくいかもしれないけど。で、これが飴ちゃん最近よく食べてるから」
「これは?何?」
「あ~、メッセージカード」
「え!ラブレター??」
私を置いて話は続いていた。プレゼントをもらえたことが嬉しい。そしてメッセージカードもくれるなんて。それがラブレターならどんなに、どんなに。
「恥ずかしいから今読まないで!」
「なら読もうかな」
「やめて!もう!」
わざとらしく怒った顔をつくる桜はカードをを取り出そうとする私の手に触れた。末端冷え性の私とは対照的に子供体温の桜の手のひらは、水仕事をする母親の様にあれいるのが常だった。毎年贈るプレゼントには必ずハンドクリームを添えて、今年もそうしようと思うのだ。
「じゃあね!」
手を振って教室を出て行った桜は最近切りそろえ短くなったボブを揺らしていた。耳の上にちらりと見えたのはシンプルな銀のピン。あれは、桜が自分で買ったのだろうか。桜にはパステルカラーが似合う。何処かで買おうか、それとも自分で作ろうか。ローズクォーツだとか、ブルーカルセドニー、グリーンプレナイト、クンツァイト、イエローシトリンや、オレンジアンデシンラブラドライトもきっと似合うんじゃないだろうか。
いつかネックレスも上げるんだ。
今年は、そうだ、リップとピン、そしてハンドクリームにしよう。
「ネックレス プレゼント意味
貴方を独占したい。貴方とずっと一緒にいたい」
「リップ プレゼント意味
貴方は特別な存在。喜んで欲しい。唇を奪いたい」
「ハンドクリーム プレゼント意味
綺麗な手でいて欲しい、癒したい、手を繋ぎたい」
ノーマル いとかくし @ito25kakusi
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