第54話 彼の過去⑥(カルード視点)

 父上に隠し子がいると判明したのは、俺にとってそこまで驚くべきことではなかった。

 数年前に女性と関係を持っていた時点で、そういうことがあるのはわかっていたことである。

 このことに、母上は激怒した。だが、それは恐らく演技だろう。あの女は、あの男に愛など持っていない。浮気されたとしても、そこまで怒りはなかっただろう。

 そもそも、母上は俺という爆弾を抱えている。そんな彼女が、父上の行動を頭ごなしに否定することなできるはずはない。

 最も、プライドが高い母にとって、浮気されたという事実は怒り狂うべきことだったという可能性はある。父上に愛はないが、自分以外に興味を持ったというのは許せないことだったかもしれない。


「ふん……」


 どちらにしても、母上が激怒したのは、このクーテイン家を乗っ取るために他ならないだろう。

 客観的に見て、浮気をした父上という存在は心証が悪い。故に、父上から権力を奪うのは簡単だ。

 そうすれば、母上が家の実権を握ることができる。公爵家の権力を好きに使えるのだ。あの欲望にまみれた女にとって、それはとても魅力的だっただろう。


「屋根裏部屋か……」


 妾とその子供は、クーテイン家で保護されることになった。

 子供については、クーテイン家の血を引いている以上、無下にはできないのは当然である。母親については、余計なことをしないために捕まえているのだ。

 二人は、俺が使っていた屋根裏部屋に軟禁されている。母上が、その部屋以外認めなかったのだ。


「あそこは、もう使えないか……」


 それは、外聞的な問題もある。だが、一番は私怨だろう。

 母上は、妾とその子供を嫌っている。俺という爆弾を抱えている自分の直系よりも、あの親子がクーテイン家の権利を握るかもしれない。そのような恐怖があるのだろう。

 プライドの問題もあるかもしれないが、一番はそれであるはずだ。俺を作り出した負債により、母上は今苦しんでいるのである。


「ふっ……愚かなことだ」


 俺は、母上の行動を愚かとしか思えなかった。

 一時の気の迷いだったのかもしれないが、フェリンドとの交際は愚かでしかない。結果的に俺という負債を作り出すことが、予想できなかった訳ではないだろう。その浅はかさは、笑えるようなことである。


「俺が生まれていなければ……いや、それはくだらないことか」


 俺が生まれていなければ、クーテイン家はもっとまともになっていたかもしれない。

 そのような思いを、俺は否定する。

 腐った父上と母上のことだ。俺が生まれていなくても、どの道破滅していただろう。

 そのようなことを思いながら、俺は屋根裏部屋を見上げるのだった。

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