第53話 彼の過去⑤(カルード視点)
俺は、空虚な毎日を過ごしていた。
母親のことや父親のことを知ってから、俺は己の人生というものに、それ程意味があるように思えなくなっていた。
俺の存在には、意味がない。父親から母親からも愛されず、クーテイン家の血を引かない俺という存在を、肯定するものは何もないだろう。
「さて、ここなら、誰にも聞かれることはありません」
「そうか……」
そんな時に出会ったのは、この国の第三王子である。
フリムドは、空虚な目をしていた。その目を見ただけで、俺は相手が何者なのか理解してしまった。
それはあちらも同じだった。俺達は、お互いの境遇を理解してしまったのだ。
「あなたの境遇は理解しています。そして、あなたも僕の境遇は理解していますね? それなら、話はとても簡単です」
「お互いに弱みを握ったということか?」
「ええ、そうなりますね」
俺達は、互いに弱みを握った。
誰にも知られてはならないことを、片側が理解したなら、何も問題なかっただろう。だが、お互いに知ってしまった以上、その話をしなければならないのだ。
「僕は、父上の妾の子です。しかし、それは王国では秘匿されていること。他言無用でお願いします」
「俺は、母上が未婚の際に付き合っていた男との間に生まれた子だ。つまり、クーテイン家の血すら引いていない。もちろん、これを誰かに言われると困る。他言無用で頼む」
俺達は、お互いの秘密を全て打ち解け合っていた。
最早、隠していても意味がないことだったからだ。王族と公爵家、お互いに秘密を調べようと思えば、調べられる立場にある。故に、自ら打ち明けておいた方がいいのだ。
秘密を打ち明けておけば、相手に対しての誠意になる。このような弱みを握っている以上、相手に信頼してもらうことは大切なことだ。
「これから、よろしくお願いします。僕は、もしかしたら、生れて初めて、信頼できる人間に出会えたのかもしれません」
「ああ、それは俺も同じだ」
だが、今までのことなど全て言い訳に過ぎなかった。
俺達の間には、奇妙な友情が築かれていた。同じ境遇であるため、信頼することができたのである。
俺達は、今まで他者を信用することなどできない人生を歩んできた。その人生の中で、初めて信頼できる者に出会ったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます