第52話 小休止

 私は、お兄様から話を聞いていた。

 お兄様の過去は、中々に壮絶なものだった。父と母に愛されず、実の父親は、実の母親に殺される。さらに、育ての親は浮気。なんとも、大変な人生である。


「お兄様は……中々、壮絶な幼少期を過ごされたのですね……」

「壮絶か……そうかもしれないな」


 私の言葉に、お兄様は自嘲気味な笑みを浮かべた。

 その苦痛に溢れた幼少期には、流石のお兄様も笑うしかなかったのだろう。


「それにしても、お父様とはそのような人物だったのですね……私は、あまり会ったことがないため、あまり知らないのですけど……」

「ああ、お前には父上を会わせることはできなかった。母上が、それを許さなかったからな」

「許さなかった?」

「お前の母親のことを、父上は愛していた。その忘れ形見であるお前に対しても、その愛は向けられていた。お前を嫌っている母上は、お前が父上に甘やかされるのが嫌だったから、会わせないように取り計らっていたのだ。それが、父上に対する罰にもなるという面もあるか……」


 私は、今までほとんどお父様に会ったことがない。

 それは、カルニラ様がそうしないように取り計らっていたかららしい。

 確かに、会った時、お父様は優しくしてくれた。その優しさは、カルニラ様からすれば、絶対に与えたくないものだろう。

 それに、お父様に対する罰にもなる。二つの面で望みを果たせるので、カルニラ様はそうしたのだ。


「お父様は、お母さんを愛していたのですね……」

「ああ、愛していただろうな。少なくとも、母上よりも愛していたのは確実だ」

「そう……なのですね」


 お父様が、お母さんを愛していたと聞いて、私は少し複雑な気持ちになっていた。

 なぜなら、お母さんはそれ程、お父様を愛していなかったと思うからだ。

 お母さんは、私に対してはとても良くしてくれた。辛い幼少期も、お母さんと一緒だったから乗り切れた。そう思える程に、愛されていた自覚がある。

 だが、お母さんはお父様のことを語る時、それ程嬉しそうではなかった。なんというか、仕方なかったという空気が、態度からにじみ出ていたのだ。


「ふん……お前の母親は、あの男に対して愛を感じていなかった。そのように思っているのか?」

「え? あ、はい……」


 私の考えていることを、お兄様は当ててきた。

 どうやら、彼もそのことは知っていたようだ。


「その部分も含めて、話を続けるとするか。そうすれば、もっと、色々なことがわかるだろう」

「はい……」


 お兄様の言葉に、私はゆっくりと頷く。

 こうして、話が再開されるのだった。

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