第38話 聞くべきではない会話

 学校から帰って来た私の元に、ケルヴィルが訪ねて来ていた。

 なんでも、ケルヴィルはお兄様とカルニラ様に関する相談があるらしいのだ。内容を聞かなくてもわかる。それはとても難しい質問だ。


「えっと……どういうものなのかな?」

「その……先日、二人が話していたのを聞いてしまったのです」

「どんな内容なのかな?」

「そこまで鮮明に聞こえた訳ではなかったのですけど、何か口論していて……」


 ケルヴィルは、お兄様とお母様の口論を聞いてしまったようである。

 もしかしたら、その口論は私に関することかもしれない。私の魔法学校入学に反対するカルニラ様と、それに対抗するお兄様。その状況は、容易に想像できる。


「何か、お母様がお兄様に弱みを握っていると言っていたのです」

「弱み? カルニラ様が、お兄様の弱みを握っているの?」

「はい。その後、お兄様が一蓮托生だとも言っていたのです」

「一蓮托生?」


 ケルヴィルが聞いたのは、よくわからない会話だった。

 カルニラ様が、お兄様の弱みを握っている。それに対して、お兄様が一蓮托生と返す。そこからの会話の内容は、まったく想像できない。


「なんだか……よくわからない会話だね」

「はい……でも、僕、怖くて……何か、聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないかと思って……」

「そうだよね……」


 会話の内容はよくわからないが、ケルヴィルは怯えていた。

 それは当然だろう。その会話は、明らかに聞かれてはならない会話である。聞いていいような会話ではないので、それは絶対に怖くなるだろう。


「こんなこと……コーリエには話せないし、当事者の二人に相談できません。他のお姉様二人は、頼りにならなので、ナルネアお姉様にしか相談できなくて……」

「うん。大丈夫、心配しなくてもいいよ」


 ケルヴィルは、私にしか相談することができなくなったようだ。

 よく考えてみれば、ケルヴィルが頼れるのは私だけである。妹のコーリエに話せる訳がないので、私くらいしか選択肢がないのだ。

 という訳で、私はなんとかしてケルヴィルを安心させなければならない。だが、どうすれば、彼を安心させることができるのだろうか。


「ケルヴィルは、何も心配しなくていいよ。私が全部聞いたから、安心して」

「はい……」


 とりあえず、私にできたのは、ケルヴィルに安心するように言うことだけだった。

 残念ながら、この質問に対する答えを私はまだ出せそうにない。問題を先延ばしにすることになるが、こう言うしかないだろう。

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