第36話 特別なもの

 私は、お兄様からフリムド様の真実を告げられていた。

 フリムド様が、妾の子だったという事実は驚くべきものだろう。

 だが、その秘密をお兄様が何故知っているのかという方が、私は気になっていた。


「フリムド様が、お兄様に話すとは思えないのですが……」

「お前が、奴を理解できていると思うな。お前がわからないだけで、奴は俺に話したのだ」

「いえ、それはありません。彼は……フリムド様がどのような人であろうとも、お兄様にその事実を話すとは思えません」


 少し語気を強めてきたお兄様に、私は堂々と答えた。

 以前までは怖かったお兄様だが、今はそのように言い返せる。私も、少しは強くなったということなのだろうか。


「ほう? それはどういうことだ?」


 言い返した私に対して、お兄様は少し嬉しそうにしていた。

 なんというか、お兄様のことがだんだんとわかってきた。

 恐らく、お兄様は強い人間が好きなのだ。自分の覇気に怯えず立ち向かってくること。それが嬉しいのではないだろうか。


「仮にフリムド様が、お兄様と親しくなかったのなら、話す理由はありません。親しかったなら、お兄様を危険に晒すような秘密を話すことはしないでしょう。フリムド様がどのような人でも、お兄様に話す意味がないと思います」

「なるほど……確かに、お前の理論はそれ程間違ってはいない」


 私の言葉に、お兄様はそのように返してきた。

 この理論は、彼でも納得してもらえるようなものだったようだ。

 ただ、理論的には間違っていなくても、事実とは異なるのだろう。ということは、お兄様は真実を言っていたということなのかもしれない。


「だが、奴が俺に話したというのは、紛れもない事実だ」

「そうせざるを得なかったから……ということですか?」


 お兄様が言っていたことが事実なら、そうせざるを得ない何かがあったということだろう。

 そうでなければ、やはり話すとは思えない。二人の間に、何か重要なことがあったとしか思えないのである。


「ふん……好きに解釈しろ。だが、俺から答えを与えることはない。そこまでは、俺も伝える義理はないからだ」

「……わかりました。それで、納得しておきます」


 お兄様は、私に好きにするように言ってきた。

 それは、実質的に私の言葉を肯定したと思っていいだろう。

 ただ、それ以上は教えてくれるつもりはないらしい。それなら、追及しても無駄だろう。これ以上聞かない方が、お互いのためである。

 王族と公爵家の人間とはいえ、フリムド様とお兄様はかなり親しい。そこまで親しい二人には、何か特別なものがあるのではないか。そんな疑念が、私の中に残るのだった。

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